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» 2011年10月01日 06時00分 公開

萩原栄幸が斬る! IT時事刻々:盗撮が「合法」? しかし「違憲」? 米国での判例から考える (2/2)

[萩原栄幸,ITmedia]
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入浴時間が分かるから「違憲」?

 ワシントン州での盗撮判決の半年前、2001年6月に次のニュースが飛び込んできた。オレゴン州で警察官が赤外線装置を用い、ある住宅の中から異常な量の熱源が出ていることを発見した。警察官は、この熱源がマリファナ栽培に使うランプの熱であると確信し、容疑者であるダニー・リー・カイロ氏を逮捕した。捜索の結果、確かに麻薬を栽培していたという。

 だが容疑者はその後、無罪放免となったのである。

 その理由は捜査令状なしに警察が熱感知器を使用したのは、米国憲法修正案第4条に違反しているという容疑者の訴えを米連邦最高裁判所が認めたからであった。

 裁判所でも大きく意見が分かれたが、結局9人の裁判官は「5人対4人」でこの逮捕は違憲だと認めたのである。その裁判官の1人であるアントニン・スカリア裁判官は、「家の内部に入らなければ得られない情報を、テクノロジーを使って入手する行為は捜索と同じである」とし、「女性が毎晩何時に風呂に入るか分かってしまうかもしれない」と述べ、これがニュースとして世界中に知れ渡ったようだ。

 この時、警察が使用した感知器は「エイジェマ210」であった。その後、この判決を受けて警察は感知器を廃棄したかというとその逆で、さらに高性能で小型の感知器を購入する根拠にしたと聞いている。

「9.11」以降

 そして、2001年9月11日の同時多発テロ以降は、米国関税局の新たなセキュリティスキームとして、「C-TPAT(Customs Trade Partnership Against Terrorism)」と「CSI(Container Security Initiative)」の導入にいたった。(関連リンク

 これもニュースになったように、遠隔からトラックやコンテナの中を透視して密入国した人間の大量発見などの成果を挙げている。さらには、最近では空港で使用している「全身が透ける搭乗検査装置」の出現によって、昔以上にプライバシーがある意味軽視されつつある。

 ここまでの話題から提起したいのは、「プライバシー」には世界中でさまざまな考え方があり、人間の感性としても、ようやく近代になって醸成してきたものであるということだ。そして、時代、地域、環境などでも大きく変化する。数年前と現在を比較しても、世界中で激変している。日本でも、個人情報保護法の施行の前と後ではその考え方が変わっているし、東日本大震災の前と後でもさまざまな意識や考え方が大きく変容している。

 果たして、このことをどのくらいの人が驚きを持って受け入れているのだろうか。首都圏でも多くの人が、震災当初に「これはえらいことになる」と直感したことだろう。それが数カ月もすると普段の生活の中に埋没してしまい、「いつもと同じで、退屈だなぁ」と思ってはいないだろうか。

 ぜひ3分間でも良いので今の世の中の変容をなるべく客観的に捉え、自身の今後のあるべき姿(5年後でも10年後でも)を想像してみていただきたいと思う。そのきっかけとして、今回はあえて「盗撮」という話題を使わせてもらった。

「正義は1つではない」

「自分の価値観は不変ではない」

「あなたの常識は世界の非常識」

 こういうありきたりな言葉をついつい他人に連発し、「この状況下で円高はおかしい」と思いながら、筆者は先日、マネーロンダリングに関するセミナーの議長を務めた。金融庁監督局や警察庁刑事局、証券取引等監視委員会事務局、東京証券取引所自主規制法人らの講師の方々のご発言の中で、今後の動向についての考えを知ることができ、議長として極めて有意義な時間を持てた。この当たりの話も今後機会ができればぜひ取り上げたいが、まだまだ筆者が自身の環境下での「常識」にとらわれていると痛感したものだった。

 10年後、20年後の未来の自分が振り返ってみると、今の状況は盗撮がワシントン州で合法となった事件とは比べ物にもならないほど、世界の“考え”が変容する未来への過渡期だったと気が付く状況にあるのではないだろうか。そう感じる今日このごろである。

萩原栄幸

一般社団法人「情報セキュリティ相談センター」事務局長、社団法人コンピュータソフトウェア著作権協会技術顧問、ネット情報セキュリティ研究会相談役、CFE 公認不正検査士。旧通産省の情報処理技術者試験の最難関である「特種」に最年少(当時)で合格した実績も持つ。

情報セキュリティに関する講演や執筆を精力的にこなし、一般企業へも顧問やコンサルタント(システムエンジニアおよび情報セキュリティ一般など多岐に渡る実践的指導で有名)として活躍中。「個人情報はこうして盗まれる」(KK ベストセラーズ)や「デジタル・フォレンジック辞典」(日科技連出版)など著書多数。


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