ソーシャルメディア活用の未来とその可能性ソーシャルマーケティング新時代(4/4 ページ)

» 2011年10月04日 08時00分 公開
[岩渕匡敦, 辻佳子,デロイト トーマツ コンサルティング]
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Level 4〜Level 5:今後、想定される絵姿

 まず、Level 4(Optimizing)は、消費者との間の双方向性が最適化され、消費者の参加や協力を活用している状態と定義している。これは、“クラウドソーシング(Crowd Sourcing)を、ソーシャルメディアを含むチャネル上で実現する”、言い換えると、“クラウドソーシングが可能なレベルで、ソーシャルメディアを含むチャネルの双方向性を最適化する”ということである。

 具体的には、例えば、各種のメディアやチャネルを通じて、ある製品のデザイン募集を実施する。その際、製品の仕様や特徴に関する問い合わせや回答をソーシャルメディア上などで行い、他社製品との違いや製品の利点などを合せて訴えかける。寄せられた製品のデザイン案を各種のメディアやチャネルを用いて共有し、ソーシャルメディアを通じて、デザイン案に対するコメントや評価と投票を募る。これによって、真に人気のあるデザインが得られるとともに、どのセグメントにどのような製品デザインが好まれるのかといった情報も合せて得られるのである。

 これは、Level 3における、消費者の声を各チャネルから吸い上げてマーケティング活動や商品開発等へ情報インプットにする企業ドリブンでの戦略的管理とは異なる。Level 4(Optimizing)では、あたかも消費者の一部が企業の一機能のように活動し、それを企業が活用する形態であり、消費者は自ら活動に参画し、有形・無形の価値を得る形態なのである。

 このようなアプローチは、クラウドソーシングとして、既に幾つかの事例(LinuxやWikipediaなど)があるが、これをソーシャルメディア上、マーケティングやプロモーションの活動と組み合わせてより積極的に展開し、製品やサービスの設計や開発に消費者の力を利用しようというのがLevel 4(Optimizing)で描かれる像である。

 Level 4(Optimizing)で得られる効果は、消費者の参加・協力によって、設計や開発のコストが抑えられ、確実に大きなセールスを見込める点が挙げられるが、より大きなポイントとしては、企業に対する消費者のロイヤリティが着実に醸成されることにある。消費者自身のアイデアや意見が他の消費者にどのように評価されるか、最終的にどのように商品化されるかといった流れを、消費者が我がことのように考えながら参加することで、企業と消費者が対等にコラボレーションする関係になるのである。

 この延長線上には、企業と消費者が一体化した独自の共通社会が見えてくる。これがLevel 5(Pioneering)である。われわれの成熟度モデルでは、企業と消費者が独自の共通社会を築き、双方が関心を持つ目的に向けて自発的に取り組む状態と定義している。これは、オープンソースのプログラミングやネット上のゲームの中でもその一端を垣間見ることができる。

 オープンソースのプログラミングでは、Webをコミュニケーションプラットフォームとして非公式コミュニティーが続々と増え、そのコミュニティーの中でルールが定められ、共通社会化が進んでいる。ネット上のゲームにおいても、実際に出会ったことがない者同士がチームを作り、その中でノウハウを共有し、ルールを定め、ゲームを楽しむ。盟友関係にあるチームとは協定を結び、チーム間の争いを避け、協力し合うといった“外交”もあり、ルールを守らなかったユーザには厳格な処罰を下すのである。これは、共通の趣味や関心を持つ者同士が新しい社会を作っていると言えるだろう。

 Level 4(Optimizing)における消費者と企業のコラボレーションが進んでいくと、オープンソースのプログラミングやネット上のゲームと同じように、一つの共通社会を作り上げていくだろう。新しい製品のデザイン、製品のキャッチコピー、製造する上でのアイデアなど、共通の関心事に対して、共同的に議論していくうちに、やがてコミュニティーが形成される。コミュニティーでの議論やそこから生まれる成果が、公平かつ平等に取り扱われるために、プラットフォームが整備され、ルールが定められる。そして、利害を調整するために、補完通貨(ポイントなどを含む)を流通させ、経済活動を加速させていくかもしれない。これがLevel 5(Pioneering)で構築される共通社会である。

 企業としては、この共通社会の一人の参加者でありながらも、その共通社会が円滑に運営され、永続的に価値創出していくための環境や仕掛け/仕組み作りを積極的に整備していく役割を担うことになる。消費者は、企業に対する高いロイヤリティーを持つだけでなく、この共通社会を能動的に活性化させていく存在になる。共通社会の環境整備が進み、活性化していくと、その他の共通社会との連携なども生まれ、消費者のさまざまな経済活動が次第にその共通社会で行われるようになり、そこが一つの大きな市場となっていくことも考えられる。そうなると、企業の新規事業がその共通社会の中で展開され、今とは全く異なる新たな企業活動が実施されることも考えられるのである。

終わりに

 来るソーシャルマーケティング新時代について、ここまで考察してきたが、先にも述べたとおり、技術的発展や消費者動向の変化などが日々進む中で、これを的確に予測することは難しい。しかし、われわれが示したLevel 4(Optimizing)、Level 5(Pioneering)といった状況、すなわち消費者側と一体化していくという流れは、既に始まっており、企業はこれを念頭に置いて、ソーシャルメディアやソーシャルマーケティングを実施していかなければならないだろう。ここでの議論が、今後の検討の一助となれば幸いである。

著者プロフィール

岩渕匡敦(デロイト トーマツ コンサルティング シニアマネージャー)

ソフトバンクにて買収した企業の日本市場参入に携わり、その後、外資IT企業のマネジメントポジションを経て現職。10年以上にわたり、日系大手の自動車、航空宇宙、ハイテク製造業、通信業界の企業に対し北米、欧州、インド、中国、マレーシア、インドネシアなど多様な文化の中でのグローバルのプロジェクトに携わる。近年はグローバルマーケティング戦略、販売戦略、サプライチェーン戦略、IT戦略での多国籍プロジェクトを多数手掛ける。

辻佳子(デロイト トーマツ コンサルティング コンサルタント)

SEを経験後、官公庁や製造業などの企業統合PMIに伴うBPR、大規模なアウトソーシング化/中国オフショア化のプロジェクトに従事。大連・上海・日本を行き来し、チームの運営・進行管理者としてブリッジ的な役割を担う。その後、ITサービス、オフショア化、中長期戦略策定、事業性評価、マーケティングリサーチなどに従事し、現在は中国+アジア途上国における進出/撤退およびビジネス支援、アジアにおける官公庁案件、IT戦略の分野で活躍。


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