最新調査にみる企業のIT投資とクラウド利用動向Weekly Memo

IDC Japanが先頃発表した国内企業におけるIT投資およびクラウド利用の動向についての調査結果から見えてくるものは――。

» 2012年08月20日 08時00分 公開
[松岡功ITmedia]

回復傾向ながらも慎重な企業のIT投資

 まずは、IT投資の動向から。IDC Japanが国内企業(団体を含む)1903社の情報システム部門のトップを対象に実施した調査である。それによると、国内企業の2012年度のIT投資マインドは、一部のセグメントで前年度と比較してIT投資を「増加させる」が「減少させる」を上回るなど、回復に向けた変化が見られるという。

 2012年度のIT投資計画の増減を前年度よりも「増加させる」とする企業は15.5%で、「減少させる」企業の19.8%を下回ったが、2011年度実績と比較すると、その差は縮まった。また、従業員規模100〜999人の中堅企業に限定してみると、「増加させる」企業が25.9%と、「減少させる」企業の21.2%を上回った(図1参照)。

図1:従業員規模別にみた国内企業のIT投資増減傾向(出典:IDC Japan)

 具体的な投資領域を経年で見ると、「ビジネス継続性/災害対策」を2012年度のIT投資領域とする企業の割合は、東日本大震災直後に行われた2011年の調査と比較してもさらに高まっている。企業セグメント別では、中堅・中小企業における事業継続計画(BCP)や災害復旧(DR)対策への投資拡大が見込まれている。

 一方で、「ネットワーク/施設/ハードウェアのセキュリティ強化」や「情報漏えい対策」などを投資領域とする企業は減少傾向にある。また、震災により意識が高まった点と合わせて2012年度に実際に投資する点を聞いた調査結果からは、震災による意識変化がBCPやDRへの投資拡大だけでなく、スマートフォンやクラウドサービスの利用拡大に結びついていく可能性も示唆されるとしている。

 IDC Japanでは、国内ITサービス市場は2012年以降、プラス成長に回復すると予測しているが、欧州債務危機などの影響もあり、その成長は盤石なものではないとしている。同社ITサービス リサーチアナリストの植村卓弥氏によると、「ITサービスベンダーは、クラウドやモビリティなどの技術を活用してBCPおよびDR強化の期待に応えつつ、比較的早期の回復が期待される中堅企業向けのアプローチの強化や、自らもリスクを負って顧客の海外展開を“共創”するなど、低成長市場で生き残るためのビジネス構造の変革が求められている」という。

クラウドを「検討したが利用しない」企業が増加

 もう1つは、クラウド利用の動向について。IDC Japanが2012年4月に実施したユーザー動向調査である。それによるとクラウドを理解している企業でのクラウドの利用/導入率は、SaaS(26.3%)、パブリッククラウド(19.1%)、業界特化型クラウド(8.2%)、プライベートクラウド(17.2%)となり、2011年に実施した同様の調査結果と比べて堅調に増加した(図2参照)。

図2:配備モデル別クラウドの利用検討状況の推移(出典:IDC Japan)

 しかし、「検討したが利用しない」と回答した企業の割合が、2011年調査と比べていずれも15〜20ポイント程度増えるなど、大幅に増加した。

 この背景には、2011年春以降、東日本大震災の影響によってクラウドの利用/導入を具体的に検討する企業が急増したものの、検討した結果、技術的/管理的な課題によって短期間ではクラウドの利用/導入ができないと判断する企業が多かったことがあるという。

 ただし、企業が具体的にクラウドを検討したことは、クラウドの理解を促し、中長期的にはクラウドの普及を促進すると、同社では予測している。

 また、企業のパブリッククラウドに対する期待はコスト削減で、ベンダーの選定基準もコストが重要視されており、その傾向は従来から変わらないと指摘。そうした激戦区ながらも、パブリッククラウドを提供するベンダーは急増しているが、企業が具体的に検討、評価するベンダーやサービスの数は限られているという。

 同調査によると、パブリッククラウドを利用している企業が、具体的に評価したベンダー数は3社以内とする回答は9割弱を占めた。ベンダーにとっては認知度を向上させ、検討や評価の対象となるリストに名を連ねる施策が喫緊の課題となっていると、同社では分析している。

 IDC Japanの見方によると、国内クラウド市場は、2010年にSaaSが「認知度の普及」から「ベンダー間の差別化」へとベンダーの課題が変化した。また2011年には、PaaS/IaaSにおいて同様の変化が見られた。そして2012年には、プライベートクラウドが「プライベートクラウドの啓発と、ベンダー認知度の普及」から「差別化」へと変化するとしている。

 しかし、パブリッククラウドと比較すると、プライベートクラウドの導入方法は多様かつ複雑だ。プライベートクラウドの導入に適したハードウェアとソフトウェアのパッケージ化ソリューションも発展しており、企業の導入パートナーに対する期待も変化している。このことから、「変化の激しいクラウド市場において、顧客視点でクラウドの提案を行い、自らの特徴を明確に示すことがベンダーの差別化につながる」と、IDC Japan ITサービス リサーチマネージャーの松本聡氏は分析している。

 以上、IDC Japanの調査をもとに国内企業におけるIT投資およびクラウド利用の最新動向を見てきたが、実はこの2つの調査結果から関連性を見出したいというのが、当初の筆者の思惑だった。

 表面的に見れば、少しばかり回復傾向にあるIT投資によって、クラウドの利用/導入率も堅調に増えているといえるだろうが、今後SaaSやパブリッククラウドの利用/導入の割合が増えていくと、IT投資の構造はどう変わっていくのか。そのあたりは、まだ直近の調査では見えないようだ。

 それもさることながら、クラウド利用の動向で「検討したが利用しない」と回答した企業の割合が大幅に増加したのが気になるところだ。IDC Japanはいわゆる大震災の影響の揺り戻しと見ているようだが、果たしてベンダーはきちんと提案できているのか。こんなにはっきりと調査結果に浮き出てくる現象は珍しいだけに、しっかりと検証する必要があるだろう。

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