ビジネスモデルの転換を急ぐ日本ユニシス田中克己の「ニッポンのIT企業」(2/2 ページ)

» 2012年08月21日 08時00分 公開
[田中克己(IT産業ウオッチャー),ITmedia]
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組織の壁を壊す新規事業開発チームの設置

 大手IT企業の多くは、これまで規模拡大の路線を走ってきた。単純に言えば、大量のIT技術者を確保し、大規模な案件を獲得し、売り上げを増やすビジネスである。だが、システム構築の大きな比重を占めていた基幹系などバックオフィスシステムの大型投資が減少する一方で、小規模なフロント系の需要が増え、かつIT資源の所有から利用への流れが加速している。

 危機感を募らせた大手IT企業は、受託ソフト開発からサービス提供へ、労働集約から知識集約への転換を模索する。だが、数千人以上のIT技術者を抱える企業は、経営の舵を切るのに時間がかかる。業種別組織が、業種をまたがるIT活用を妨げることもある。A事業部とB事業部が同じようなサービスを開発するなど、無駄な投資も散見されている。

 平岡専務は「当社は縦の組織の壁を崩せるぎりぎりの規模」とし、組織横断でユーザーのIT活用に応えられる体制にしたという。例えば、地方銀行が顧客を囲い込むために、流通業のCRM(顧客関係管理)を生かすことを検討したら、金融部隊ではなく、そのノウハウを持つ流通業チームが前面に出て提案する。加えて、「企業とユーザー、企業と企業、企業と社会をつなげることで、新しいビジネスを創出する」(平岡専務)サービスを開発する。そんな「当社らしくないことを考える」(同)のが、平岡専務が率いる新規事業開発チーム「プリンシパルプロジェクト」だ。各事業部に所属するIT技術者や営業担当者ら約30人で構成する。

 実は、そうしたことを実現する上で、システム構築の経験とノウハウの蓄積が重要になる。例えば、SCM(サプライチェーン管理)を構築する場合、同じ業種でも企業ごとに目的が異なる。物品管理や品質管理、商品開発などのプロセスも違う。そのプロセスにITを組み合わせて、ビジネスの価値を高める。新しいビジネスモデルのアイデアも生み出す。

 平岡専務は「ユーザーの業務を知り、ビジネスの価値を知ることが、キーノウハウになる」とし、システム開発事業の一部を研究開発と位置付けたという。蓄積したノウハウは集約し、テンプレートとして再利用する。業種パッケージソフトを販売し、カスタマイズして収益を得るビジネスとは異なる。それが流通次世代基盤「CoreCenterシリーズ」で、平岡専務はビジネスモデルだけではなく、ベストプラクティスや提案書も、徹底的に再利用するよう指示している。

一期一会

 毎週月曜日18時、平岡専務が主催するプリンシパルプロジェクトのメンバーが集って、白熱した議論をかわす。事業企画をレビューし、平岡専務が認めた案件を経営会議に上げて、承認を得られたら事業を立ち上げる。メンバーは新しいアイデアを考えられるので、生き生きとしているという。言われた通りにこなす受け身ではないし、夢のある明日のビジネスに参画できるからだろう。

 このプロジェクトは2011年に始めて以来、今のメンバーが4期生になる。3カ月ごとにメンバーを入れ替えているので、100人超の社員が参画したことになる。だが、「プリンシパルに入ると、大変だぞ」という社員の声が最近、聞こえてくるという。メンバーになったら、日常の業務をこなしながら、事業企画書を準備するなど、仕事量が大きく増えるからだろう。

 少し心配になった。「プロジェクトに参加したい」と積極的な社員が今後もいるのだろうか。「言われたことだけをすればいい」という待ちの姿勢が社内にまん延すれば、未来の展望は開けない。事業も縮小するだろう。そうなれば、2014年度に売上高2800億円、営業利益率5%という目標達成は難しくなるだろう。

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