企業価値を向上させるIT基盤構築

社内稟議の手助けも? クラウド構築を支援するベンダーの取り組み漠然とした要件を整理

コスト削減、経営のスピード化などの実現に向け、クラウドへの期待が高まる中、日立はユーザーのクラウド構築を包括的に支援する施策を始めている。

» 2012年08月31日 08時00分 公開
[白井和夫,ITmedia]

(このコンテンツは日立「Open Middleware Report vol.59」をもとに構成しています)

クラウド構築、工数や費用対効果は?

日立製作所 情報・通信システム社 ソフトウェア本部 システム基盤ソリューション部 担当部長 吉村誠 氏

 厳しい経営環境の中、企業には競争力の向上や業務変革がこれまで以上に求められている。IT投資に対する経営層の要求はますますシビアにならざるをえない。かつてであれば、先進的なシステム構築のためならコストをかけることを容認していた企業も、現行業務を維持しながら最小のコストで品質と生産性の高いシステムを実現する方向にIT戦略をシフトしている。

 その背景には、コスト低減ばかりでなく、迅速性や柔軟性といったメリットも併せ持つクラウド技術の急速な進展がある。「こうした環境変化に伴いITの役割にも大きな変化が起こっています」と、日立製作所 ソフトウェア本部 システム基盤ソリューション部 担当部長の吉村誠氏は指摘する。

 「事業単位でシステム化を推進していた時代は、オンプレミスな環境に複数の業務基盤が乱立し、システムの肥大化によるコスト増を招いていました。一方、現在では事業の選択と集中が進むにつれてITの投資対効果も厳しく精査されるようになり、新たな動きが始まっています」(吉村氏)

 そこで進展してきたのがコスト低減を目的とした、仮想化によるサーバ統合やクラウドサービスの活用だ。

 「仮想化と基盤統合によるコスト削減に関しては、多くの企業が実際に取り組みを始めており、一定の成果が出ていると考えていいでしょう。今後はさらに、クラウドの特性を生かしたスピード開発やパフォーマンス向上、さらに多様なサービスを導入・連携させた新ビジネスの創出基盤の確立が、企業におけるクラウド活用の課題になるでしょう」(吉村氏)

 クラウド活用のポイントとなるのが膨らんだ情報システムのサービス化とその整備だ。業務をサービスとして個々のシステムから切り離し、これらサービスの疎結合によってシステムを構築するSOAの導入が「有効な解決策となる」と吉村氏は言う。情報システムをSOA化することでシステムの柔軟性や保守性が高まり、将来的にもさまざまなクラウドサービスとの情報連携が容易に行えるようになるからである。

 しかし、SOAやクラウドに代表される製品技術を導入する際には、検討すべき要素が多数存在する。現状の課題解決と将来目標に向けた次期システムにはどのような基盤を整備すればいいのか。そこに適用するミドルウェアには何をどう組み合わせるべきか。実際の設計/構築にかかる工数や費用対効果をどう見積もるかなど、それぞれの段階で新技術を適用した際の効果や実現性をきちんと評価できなければ、社内稟議を通すことも、その後のシステム開発をスムーズに展開していくことも難しくなる。

支援サービスの適用事例

日立製作所 情報・通信システム社 ソフトウェア本部 システム基盤ソリューション部 主任技師 谷口尚子 氏

 このような状況を受け、日立では顧客のシステム開発を成功に導くことを目的に、導入前の企画・検証段階から構築・本番稼働までを一貫して支援する「ミドルウェア活用ソリューション」を提供しているという。日立製作所 ソフトウェア本部 システム基盤ソリューション部 主任技師の谷口尚子氏は、現在進行中の案件から、その活用例を次のように説明する。

 「あるお客さまは、コスト低減やグループ企業内でのリソース共有を目的に、まずはプライベートクラウドを導入し、将来的にはパブリッククラウドも活用したいという希望を持っておられました。そこで新しいシステムの構築に向け、RFI(Request For Information:情報提供依頼書)を出されました。今までですと、RFIで要求されている機能を提供するミドルウェアの製品情報をご案内するだけにとどまっていましたが、お客さまの業務システムを深く理解して最適な情報提供をするため、顧客要件から、ミドルウェアを適用した次期システム像を提案する『企画サービス』を適用することにしました」

日立が提供する「ミドルウェア活用ソリューション」。企画サービス、スタータサービス、テクニカルサービスの3種で構成される

 吉村氏は、システム開発の全工程でミドルウェアの専門家が課題解決を手厚くサポートできることがミドルウェア活用ソリューションの特徴だと説明する。

 「企画サービスでは、実績ある活用モデルや、さまざまな業務分野で課題解決に役立ったユースケースを数多く取り揃えています。このため、お客さまの要件が漠然としたものであっても、その内容を整理して効果的な解決策を盛り込んだオリジナルの次期システム像をご提案することが可能です。またスタータサービスでは、最も実現性を検証しなければならない部分のプロトタイプを作り、詳細なアセスメントを実施しますので、ミドルウェア適用時の実効性能だけでなく、開発工数算出の基礎値も採ることができます。こうした数値はお客さまの社内稟議やRFP(Request For Proposal: 提案依頼書)の作成に活用できますし、何よりも開発計画の精度向上と、プロジェクト全体のリスク低減に大きな効果を発揮します」(吉村氏)

 顧客に対する実際の提案の中では、谷口氏らはあらかじめ用意された活用モデルやユースケースをベースに顧客オリジナルの次期システム像を策定。クラウド上で業務連携させる上で必要になる「ビジネスプロセスの見える化」を図るには「既存業務のSOA化から段階を踏んで行うべき」とのアドバイスを示しながら、顧客の要望を実現する方法としてCosminexusやJP1などの自社製品をはじめ、他社製品も含んだソリューションを提案したという。

 その後も谷口氏らは提案製品のプレゼンテーションや顧客向けセミナーの実施などを営業・SEとともに積極的に展開している最中にある。

 「現在、お客さまは具体的な要件定義に向けPOC(Proof Of Concept:概念実証)を実施される計画を持っていますが、その準備作業にかなりの工数がかかると予想されます。そこでわれわれはスタータサービスを適用して、プロトタイプによる検証を支援していきたいと考えています。POCの期間短縮と後工程でのリスク軽減に、このサービスは非常に有効に機能するはずです」(谷口氏)

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