数十万円程度の業務アプリへの需要は多い サイボウズ田中克己の「ニッポンのIT企業」(2/2 ページ)

» 2012年09月11日 08時00分 公開
[田中克己(IT産業ウオッチャー),ITmedia]
前のページへ 1|2       

業務システムとしての活用

 こうした新規顧客を開拓するために、販売形態は直販からパートナー販売へと変えていく。これまでクラウド版の8割が直販だったのは、「パートナーが売れるのかどうか分からないので、クラウド版の扱いに慎重だった。だが、売れることが実証され、営業効率が良いことも分かってきた」(青野社長)ことで、市場拡大が期待されてきた。

 そこで、パートナーへの販売支援を拡充する。その1つは、パートナーが独自アプリケーションを開発、提供できるようにし、付加価値をつけられるにすること。30社超のパートナー企業(7月末時点)が既にkintoneを活用し、業務アプリケーションの開発に取り組んでいるという。あるパートナーは日報、タスク管理、問い合わせ管理などシンプルな業務アプリケーションをテンプレートとして用意する。顧客管理を5万円から開発するという小規模なパートナーもある。

 青野社長は「100円のゲームソフトを開発するような感覚で、10万円、20万円の業務アプリケーションを作れる」とし、中小IT企業がIT市場で戦える武器にすることを訴えている。サイボウズは専門チームを設けて、そんなことを目指すパートナーの開拓を進める。ユーザーの業務を理解し、素早く開発に取り組みたいIT企業といったところだろう。青野社長は「ユーザーの現場にいけば、システム化したいことはたくさんある。IT部門が対応しないような小さな案件もある」とみている。

 ノンプログラミングのkintoneのユーザー数は数百社(7月末時点)だが、その7割がユーザー部門だという。IT企業にアプリケーション開発を依頼したり、自らアプリケーションを作ったりするために導入している。残りの3割は、IT部門になる。彼らはユーザー部門の要求にスピーディに応えるために、シンプルなアプリケーションを開発するツールとして採用している。

 だが、ユーザー部門が勝手にアプリケーションを構築すれば、IT部門の管理外になり、ITガバナンス上の問題になる。青野社長は「クラウドは集中管理なので、IT部門は、利用部門がどんなアプリケーションを作ったのか分かる」と、問題になることないという。いわばエンドユーザーコンピューティング(EUC)という新しい市場を創出する。


一期一会

 青野社長は当初、「クラウド版を出せば、オンプレミス版が減少する」と予想していたが、オンプレミス版は減らなかったという。単純計算すれば、クラウド版のユーザーが1700社(1社20ユーザー、Office利用料は月額500円)とすれば、月額収入は1700万円、半年で1億円強になる。2012年2月から7月までの総売上高は5.0%増となり、結果的にクラウド版の分がプラスになっている。

 青野社長は、新しいことに意欲的に取り組む。危機感があるからだろう。クラウド基盤構築はその最たるものに思える。米クラウドベンダーに負けない信頼性の高いクラウド基盤にし、価格でも勝負できると自信を見せる。欧米商品にはないような、かゆいところに手の届くものに仕立てたという。

 同時に、IT企業にビジネスモデルの転換を迫る。数千万円の案件を受注するのではなく、業務アプリケーションを10万円で開発しても、収益を確保できるようにする。例えば社員100人の企業のIT投資は、kintoneの月額使用料8万8000円(1ユーザー880円)と、10万円の業務アプリケーションになる。業務アプリケーションが増えれば、もう少し高くなるが、それくらいのIT予算で済む時代になる。大手IT企業はそんな市場に魅力を感じないだろうが、中小IT企業の活躍する場が増える可能性がある。

「田中克己の『ニッポンのIT企業』」 連載の過去記事はこちらをチェック!


前のページへ 1|2       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ