エンタープライズにも浸透し始めたクラウドサービス――AWS長崎社長に聞くトップインタビュー

クラウドサービス大手AWS日本法人の長崎忠雄社長は、「この1年で企業顧客の利用が急増している」と話す。ユーザーの動向や同社の取り組みを長崎氏に聞いた。

» 2012年10月11日 08時00分 公開
[國谷武史,ITmedia]
アマゾン データ サービス ジャパン 代表取締役社長の長崎忠雄氏

 クラウドサービス大手Amazon Web Services(AWS)の日本法人「アマゾン データ サービス ジャパン」の長崎忠雄 代表取締役社長は、同社が2011年3月に東京へデータセンター(東京リージョン)を開設して以降、企業利用が急増していると話す。長崎氏に企業ユーザーの動向や同社での取り組みを聞いた。

 AWSは世界8カ所に冗長化されたデータセンター群による「リージョン」を展開する。長崎氏によれば、リージョン開設初年における利用企業数の伸びは東京リージョンが最高となり、「クラウドサービスに対する国内企業の認知が浸透し始めた」と語る。

 クラウドサービスがIT市場に登場した当初、クラウドのセキュリティやサービス品質に懸念を抱く企業は非常に多い状況だった。だが長崎氏は、「クラウドに対する考え方はユーザーによって異なるので、今もそうした懸念が無くなったわけではないが、少なくともAWSを利用する企業の間では解消されている」という。

 クラウド普及に伴ってまずIaaSを利用したシステムやアプリケーションの開発が広がった。クラウドを利用すれば、開発環境を自前で用意する手間が少なくコストも抑えられ、開発期間も短縮できる。これに先鞭を付けたのはAWSなど海外のクラウドサービスだった。

 長崎氏はAWSのサービスの特徴として、初期費用無料で利用に応じた従量課金であること、誰もがセルフサービスで扱える使いやすさを強調する。「小売のAmazonのビジネスモデルがベースにあり、グローバルなスケールメリットを存分に生かして低価格のサービスを提供できる。サービス開始からこれまでに20回の値下げを実施するなど、この価値をユーザーに還元することを重視している」

 こうした同社がうたうサービスを体験したユーザーは、クラウドをより本格的に活用するようになるという。この1年で同社は、AWSのリソースを占有的に利用できる「Amazon VPC(Virtual Private Cloud)」や専用線接続サービスの「AWS Direct Connect」などを投入。業務システムにおけるクラウド活用が目立つようになり、AWS上で海外向けサービス基盤を構築したgloopsやWebサイトシステム全般をAWSに移行した花王、医療データをストレージサービスのS3に保管する東芝メディカルサービスなどの事例が出始めた。

 「特にセキュリティでは金融情報システムセンターのガイドラインに基づくAWSでの対応状況を公表し、S3では99.999999999%の耐久性を確保している。ユーザーとは要件定義を含む綿密な検討を重ねており、懸念が無くなるよう努めている」(長崎氏)。ERPなど基幹業務システムをAWSで運用する企業もあるという。

 クラウドユーザーの拡大でサービス競争も激化しつつあるが、競合サービスの印象について長崎氏は、「ユーザーが求めるサービスの実現と選択肢の提供に注力する」と答え、「ユーザーフォーカスが第一だ」と繰り返し強調した。

 先進的なクラウドユーザーの中には、VPCのような利用形態にとどまらず、運用のアウトソーシングを含めたフルマネージドサービスの利用を検討する動きも現れるようになった。長崎氏は、「将来的にクラウドは小売に匹敵するビジネスになるとみている。この勢いは今後も続くだろう」と語っている。

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