プロジェクトのチームメンバーにみられる「4つの行動傾向」から、それぞれのタイプの相手に応じたコミュニケーションのポイントを紹介しよう。
前回はチームメンバーと付き合う方法として、「4つの行動傾向」をご紹介した。今回は「4つの行動傾向」で分類されたそれぞれのタイプ(「現実派」「社交派」「理論派」「友好派」)に効果的なコミュニケーションの取り方と、それぞれのタイプが嫌がるポイントについて解説する。
前回の繰り返しになるが、「現実派」は行動力と決断力がある半面、自信家で自説にこだわり、他人から指示されるのを嫌う傾向がある。その根源には「相手を支配したい」という欲求があるからだ。「現実派」とのコミュニケーションを取るときには、「支配したい」という欲求を満たす(もしくは不満を感じない)ようにする。
ちなみに、営業系の管理職は特に現実派の割合が多い。SIerにいるITマネージャーなら、自社の営業部門にいる管理職とコミュニケーションをとるときに、以下に紹介する方法を取り入れてみてほしい。
「社交派」は話好きであり、アイデアが豊富で想像力があるものの、時として感情的になったり、非現実的になったりする傾向がみられる。その根源は、「周囲に影響を与えたい」という欲求だ。IT部門に所属しているメンバーに比べると、業務部門や営業部門に「社交派」の人が多い。ITマネージャーにとっては、あまり接し慣れていないタイプということになるかもしれない。
IT部門の業務の性質上、仕様書などのドキュメントはかなり多いが、「社交派」は資料を読むことをあまり好まない。そのため「社交派」に対して、資料を渡して読んでおくよう依頼をしても、期待するほどその資料の内容は理解されていないと思ったほうが良い。
筆者の経験では「社交派」本人は、ざっと目を通したと言うかもしれないが、資料の内容をベースにした議論を進めるうちに、ほとんど読んでいないことが分かる。当然、資料の作成者(「理論派」であることが多い)は、不満を感じる。とはいえ、「社交派」の資質を変えることはできない。
「社交派」は極論すれば、資料がなくても要点のみを説明することで合意が得られる。「相手に話をさせてあげながら」も本題と大きくずれていくような場合には、質問を挟んだりしながら、会話をコントロールしていくことが必要だ。コントロールをしないと、いつまでも話を聞かされるような事態になりかねない。具体的には次のようにすると良い。
「理論派」は事実やデータを重視し、正確性と分析力がある半面、完璧主義者であるため、行動が慎重であり、変化に弱い傾向がある。その根源は、「正確にやりたい、失敗したくない」という欲求である。この欲求は業務の進め方に顕著にあらわれる。「理論派」のメンバーにタスクを割り振るときには、目的と納期をできるだけ明確にして、指示をする必要がある。可能であれば、指示内容を簡単なメモや資料にしておくとなお良い。さらに良いのは、「なぜあなたに頼むのか」という理由を示してあげることだ。その理由に納得すると、「理論派」は確実に成果を上げる行動をとる。
「理論派」はまるで自身がコンピュータープログラムのような存在であり、本人がタスクを処理しやすい(つまり最大限の成果を上げやすい)ようにインタフェースのパラメーターが決まっている。入力のパラメーターさえ間違いなく指示できれば、出力はほぼ完璧なものが仕上がる頼もしい存在である。
ただ、他人からみると入力のパラメーターが細かすぎると思われることも多く、多忙な中で「そんなにかまっていられない」というのが本音ではないだろうか。ITマネージャーとしては、できるだけ明確に指示することを心がけよう。一方で「理論派」本人は足りない入力パラメーターを、テストケースのように数パターン自分に入力して、曖昧な中でも業務を進め、周囲にあの人は面倒だと思われないようにする工夫が必要になる。具体的には次のようにすると良い。
「友好派」は協調性があり、気配り上手で、忍耐強い半面、「いい人」になりたがるために対立を避け、受動的になる傾向がある。その根源には、「周囲と和を保ちたい」という欲求がある。
「友好派」は、チームメンバー同士の接着剤としてチームがよくまとまる原動力に「なり得る」。「なる」と断言しないのは、「友好派」個人のパフォーマンスをITマネージャーの立場で判断すると、期待通りにならないケースが散見されるからだ。「友好派」は個人のタスクを処理する前に、困っている周囲に手を差し伸べてしまう傾向がある。そのため、自分で多くのことを抱え込み、業務がなかなか前に進まないことがあるのだ。自分の守備範囲を超えて業務を進める姿勢は、大いに評価すべきことであるが、まずは自分の守備範囲を守らなければならないということを、しっかりと認識するよう指導していく必要がある。
ITマネージャーとしては、「友好派」には業務を抱え込ませすぎないよう、次のようなコミュニケーションを取り、本音を引き出すことがプロジェクトを進める上で効果的である。
各タイプに効果的なコミュニケーションの取り方について、ご理解いただけただろうか。上司・部下の関係、IT部門と業務・営業部門の関係、それぞれの壁を打破するきっかけになれば幸いだ。最後に「効果的なコミュニケーション方法」「嫌がるポイント」をまとめた資料をご紹介して締めくくりたい。
次回は職場の雰囲気づくりのために「簡単なのに見落とされていること」をご紹介する。
青木裕(あおき ゆう)、ビジネスコーチ株式会社執行役員 ビジネスコーチ アジア 取締役。SIerにてプロジェクト運営にコーチングを導入。常駐先で運営手法が評価を得て、コーチング研修を実施。2006年、ビジネスコーチ株式会社に参画。2010年より現職。本連載記事を再編集した電子書籍「成功するITマネージャーの『人づきあい術』」が主要電子書店で入手可能です。
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