セールスフォースに特化、海外成功に自信を見せるテラスカイ田中克己の「ニッポンのIT企業」(2/2 ページ)

» 2013年01月16日 08時00分 公開
[田中克己(IT産業ウオッチャー),ITmedia]
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年3回のバージョンアップに対応する

 もう一つのハードルがある。SFDCが年3回ほど行うバージョンアップに対応する技術力を備えていることだ。例えば、JavaやVisual Basicなどの技術を一度習得したら、5年、10年、食べていけるかもしれないが、SFDCのクラウド環境を活用するには、常に新しいものを取り入れていくことが求められる。バージョンアップに追随するには、コストもかかる。

 テラスカイはバージョンアップの度に社内研修会を開く。技術者らにSFDCの資格を取得するための教育に費用もかける。こうした研修・教育に必要なテキストを自前で作成し、研修専門の要員を2人も配置した。「一日も早く新しい技術を習得する」(佐藤社長)ことと、教育にかけるコストを抑えるためだ。

 頻繁なバージョンアップは、「ドキュメントの整備が追いつかない」(佐藤社長)ことにもなりかねない。そのため、「自分たちでも調べたりし、情報をナレッジとして蓄積している」(佐藤社長)。例えば、クラウドサービスの利用制限対策だ。マルチテナント型の場合、複雑な処理やバッチ処理の多いユーザーがいると、他のユーザーに影響を与える可能性があるという。どう対処し、問題解決を図るのか極めて重要なこと。「案件を数多く経験したからこそ、ノウハウを蓄えられた」(同)。

 テラスカイは自社商品の開発にも力を入れている。PaaS(サービスとしてのプラットフォーム)製品「Force.com」向け開発ツールだ。同社は、発売して数年しか経っていないForce.comの開発ツールは「十分にそろっているわけではない」と考えている。そこで、社内で開発、利用するForce.comやCRM(顧客情報管理)の画面を作成するツールと、クラウドサービスと社内システムのデータを連携させるツールをサービスとして商品化した。2007年3月に発売した画面作成ツールは累計約100社、約37万ユーザーになる。このうち損害保険ジャパンが約35万ユーザーと最も多く利用する。2010年11月にサービス開始を発表したデータ連携ツールのユーザーも100社程度あるという(それぞれ11月時点)。

 これら開発ツールは海外市場で売れるチャンスもあるとし、2012年8月に米サンノゼに現地法人を設立、9月から販売を開始した。この時期に立ち上げたのは、SFDCが米サンフランシスコで開催する展示会「Dreamforce 2012」に出展し、米国市場で本格的な活動を開始するためだ。佐藤社長は「反響があった。全米各地のユーザー会に呼ばれるなど、売れ始めている。米国でのビジネスを必ず成功させる」と意気込む。日本のIT企業が企業向けソフト商品で大成功した事例は少ないだけに、今後の動向が注目を集めるだろう。


一期一会

 佐藤社長は1987年4月に日本IBMに入社、中堅企業向け営業などを担当する。その後、同社を退社し、SFDC日本法人の立ち上げに参画した。IBM時代の上司だった北村彰氏が社長(当時)を務めた縁もあるが、それを契機にクラウドビジネスの成長を確信していった。SFDCを活用したクラウドビジネスには、上記に指摘したような参入障壁があり、大手も中小も参入しづらい。そこに成長のチャンスを見出したのだ。損害保険ジャパンなど大手ユーザーを次々と獲得し、「想像以上に伸びている」という。

 2010年9月には、NTTソフトウェアと資本・業務提携を発表する。NTTソフトが第三者割当増資を引き受け、発行済み株式の約10%を保有することになった。NTTグループを始めとする顧客基盤にクラウド導入支援を共同で展開するためなどだ。2012年10月には海外市場開拓に向けて、NTTソフトの株式保有率は約19%に高まる。もちろん佐藤社長が半分以上の株式を持っているが、ベンチャーキャピタルの出資も受けている。次の展開は海外戦略と出口戦略などになりそうだ。

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