富士通が先週、クラウド事業における新たな取り組みを発表した。そこにはクラウドファースト時代の新需要も見て取れる。
富士通が5月14日、クラウドに関する製品やサービス群を「FUJITSU Cloud Initiative」として新たに体系化し、これに基づく第1弾の商品群として10種類の新サービスを提供すると発表した。
発表会見で説明に立った同社マーケティング部門副部門長の川妻庸男執行役員常務は、「クラウドファースト時代を迎え、クラウドに対するニーズが広がるとともに多種多様なサービスがどんどん登場する中で、顧客自身で最適なサービスを選定することが難しくなってきている。今回の取り組みはそうした課題を解決し、顧客にクラウドの最適解を提供するのが目的だ」と語った。
FUJITSU Cloud Initiativeは、プライベートクラウドからパブリッククラウド、インテグレーションからIaaS・PaaS・SaaSなど全てのクラウド領域を対象とし、同社がこれまで展開してきたクラウド関連サービスを体系立てて整理したものだ。
さらに、これに基づく第1弾の商品群として、10種類の新サービス(IaaS:2種、PaaS:4種、クラウドインテグレーションサービス:4種)、加えて2種類の強化サービス(PaaS:1種、セキュリティサービス:1種)を用意した。
また、適材適所のクラウド利活用に向け、クラウドスペシャリストとして100人、クラウドインテグレーターとして2000人を配備し、クラウドインテグレーション体制を強化するとした。
こうした取り組みによって、同社では2012年度(2013年3月期)で約1500億円だったクラウド事業の売上規模を、2013年度(2014年3月期)は3000億円と一気に倍増させたい考えだ。
FUJITSU Cloud Initiativeの全容については、既に報道されているので関連記事等をご覧いただくとして、ここでは同社がIaaSの新サービスとして投入したパブリッククラウドサービス「FUJITSU Cloud IaaS Trusted Public S5 専用サービス」(以下、Trusted Public S5 専用サービス)と、プライベートクラウドサービス「FUJITSU Cloud IaaS Private Hosted」(以下、Private Hosted)に注目したい。
Trusted Public S5 専用サービスは、物理サーバ、ストレージ、ネットワーク環境の全てのリソースを顧客専用に提供するパブリッククラウドサービスである。パブリッククラウドとプライベートクラウド双方の特長を併せ持ち、これまでパブリッククラウドの利用が難しかった個人情報を扱う行政機関を医療機関、または企業内に閉じたシステムを活用していた顧客も、安心してパブリッククラウドを利用できるようにするという。
特長としてはTrustedの名の通り、稼働実績99.9998%の高可用性や、ISO27001およびFISC準拠のセキュリティ、数万件のシステム構築実績に基づいたテンプレートによるインフラ構築スピードの速さなどが挙げられる。加えて、クローズドネットワークや顧客ごとのセキュリティポリシーへの対応、リソースを共用するパブリッククラウドとの連携が容易なことも、同サービスならではの特長といえる。
こうした特長から、同社ではこのサービスの適用領域として、セキュリティや性能面で安定した基盤が必要な業務・業界に最適とし、クローズドネットワークが必要な「企業グループ内利用」や政府・金融・自動車などの「業界内クラウド」、食・農業・医療・介護などの「社会システムクラウド基盤」といった幅広い利活用を想定している。
一方、Private Hostedは、運用基準やセキュリティポリシー、サービスレベルを顧客の要件に応じて、個別にカスタマイズ可能なプライベートクラウドを富士通のデータセンターから提供するサービスである。
同社ではこのサービスの特長として、基幹システムに利用できる点や、プライベートクラウドながらリソースを従量課金で利用できる点、さらには高品質な運用サービスやグローバル対応が可能な点を挙げている。
富士通が今回こうした2つのIaaSの新サービスを投入したのは、「パブリッククラウドとプライベートクラウド双方の特長を併せ持つサービスへの顧客ニーズが最近、急速に高まってきている」(岡田昭広サービスプラットフォーム部門クラウド事業本部長)からだ。
サービスのカテゴリーでいうと、Trusted Public S5 専用サービスはパブリッククラウド、Private Hostedはプライベートクラウドだが、2つとも岡田氏の言う顧客ニーズに対応したもので、両側からのアプローチによって顧客の多様な要望に応えようという富士通の意図があるのは明らかだ。
同社マーケティング部門の阪井洋之 統合商品戦略本部長と小田成サービスビジネス本部長の説明によると、同社のクラウド事業におけるパブリッククラウドとプライベートクラウドの割合は、現状でおよそ4対6とのこと。その6割を占めるプライベートクラウドにおいて、2011年度(2012年3月期)で6%程度だったホスティング型が、2012年度には20%程度に増加したという。
その背景には、東日本大震災をきっかけに事業継続対策としてホスティング型プライベートクラウドを利用する企業が増えた動きがあるようだ。
ホスティング型プライベートクラウドについては、以前からクラウドベンダーの間でも話題に上っていたが、今回富士通がその発展系ともいえる2つのIaaSの新サービスを投入したことで、新たな需要として広がる可能性が出てきたように感じる。クラウドファーストというとパブリッククラウドを前提に考えがちだが、とりわけデータの扱いに慎重な日本の企業にはパブリッククラウドとプライベートクラウドの“中間”に、意外に大きな潜在需要があるかもしれない。
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