現場で効くデータ活用と業務カイゼン

業務品質の向上と100%ペーパーレスへの挑戦、名物企業が挑むiPad活用の舞台裏導入事例

中小企業の経営支援やダスキン事業を中核とする武蔵野は、iPadとFileMakerを活用した業務品質の向上とペーパーレス化に挑戦中だ。同社の小山昇社長の熱意と、この取り組みをサポートするU-NEXUSとの二人三脚による活動がこれを支えている。

» 2013年09月26日 08時00分 公開
[國谷武史,ITmedia]

 中小企業の経営支援やダスキン事業を中核とする武蔵野は、2000年度と2010年度に初めて二度の経営品質賞を受賞した名物企業だ。同社代表取締役社長の小山昇氏は、これまで500社以上の経営指導を手がけ、年間240回以上の講演も行う「経営の神様」としても知られる。そんな同社が2012年から取り組んでいるのが、iPadとFileMakerを活用した業務品質のさらなる向上と完全なるペーパーレス化だ。

情報共有のリアルタイム化で業務遂行を確実に

小山社長 武蔵野の小山昇代表取締役社長

 同社がiPad導入を始めたのは2010年の日本発売直後とかなり早い時期だ。iPadに興味を持ったという小山社長がいち早く使い始め、iPadの操作に慣れるようにと幹部社員へすぐに配布。まずはプライベートでの利用からスタートした。

 企業のiPad導入では業務用途に限定して管理も徹底するケースがほとんど。しかし、小山氏は「仕事で使いましょうというのでは、社員はなかなか覚えられません。ゲームのように楽しいことなら、すぐに操作を覚えられます」と話す。この発想の転換が、同社でのiPad活用の道のりを円滑にスタートさせるきっかけになった。当初はPCの代わりとしてメールやスケジュールの確認に活用。そしてiPad miniが発売されると、小山社長はその優れた携行性に着目し、iPadからiPad miniへ切り替えを即決している。

 iPad miniのさらなる業務での活用のきっかけは、小山社長から経営指導を受けていたU-NEXUS代表取締役社長の上野敏良氏が、FileMaker Goを使ったアプリケーションとペーパーレス化に取り組む企業の導入事例ビデオを小山社長に見せたことだった。

 「映像を見た瞬間に、当社なら100%ペーパーレス化ができると直感しました。どうすれば良いかもすぐにイメージできたので、その場で上野さんに協力を依頼しました」(小山社長)

 iPad miniの本格活用は、まず年間240回ものセミナーを運営する同事業部で2013年1月にスタートした。従来、経営サポート事業部では約60人の社員が、セミナーごとに異なる進行管理表や来場者の確認、備品管理などに紙のチェックシートを使用していた。これをFileMaker Proで電子化し、現場では全社員がiPad miniにインストールしたFileMaker GoからWi-Fiや3G回線を経由してクラウド上にある電子化したチェックシートを利用している。

 以前の紙のチェックシートによる業務では、情報をリアルタイムに共有することができないため、社員同士は携帯電話で状況を確認しあったり、後からチェックシートを突き合わせて確認しあったりと、コミュニケーションの無駄が発生していた。

武蔵野 経営サポート事業の境幸二さん

 iPad miniとFileMakerの活用によって、今では会場内の離れた場所にいる社員同士でもリアルタイムに情報が共有できるようになっている。担当者が事前の準備からイベント終了までの進行プロセスの状況を確認してiPadから入力すれば、すぐにほかの社員にも反映される。連絡事項などもその場でiPadのメモ機能に入力すれば、直ちにFileMaker上で共有され、円滑で確実なセミナーの運営を実現している。イベント会場のレイアウトやマニュアルさらには、会場設営の見本写真なども項目ごとに紐づけることにより、紙ではできない効率的な業務を実現している

 「毎回セミナーには多くの方が来場されます。例えば、数台のバスで会場を移動するような場合、以前ならバスに同乗しているスタッフ同士が現在地や遅れ具合などを携帯電話で煩雑なやり取りを頻繁にしなければなりませんでしたが、今ではスケジュール通りに集合できるなど、業務品質が大幅に向上しています」(経営サポート事業部の境幸二さん)

 iPadとFileMakerの活用は、業務品質の向上と同時に、当初の目的であるペーパーレス化に大きく寄与しているという。というのも、セミナーで使用するチェックシートは数十種類に上り、それを60人の社員に印刷、配布するだけでもかなりの手間とコストが発生していた。準備段階でも頻繁に変更が発生するため、その都度印刷する必要があったものの、電子化とiPadの導入によって、こうした課題が一気に解決された。

組織横断の展開に成功

 iPadとFileMakerを活用した取り組みは、社内業務にも広がっている。

 例えば、月に一度実施している「環境整備点検」では職場の清潔さなど、20数項目32部門について小山社長や担当者が実際に現場を巡回してチェックする。そのためのチェックシートも電子化して、現場でiPadから実施状況やチェック点数を入力したり、カメラで撮影した画像を添付したりできるようにした。結果は点数を集計してグラフを交えたレポートを作成し、全社員に公開する機能を備える。仕事をしやすくする環境を維持することに大きく貢献しているとのことだ。以前はこれらが全て手作業で行われていた。

 社内の会議でもiPadとFileMakerを活用して効率的な情報共有やペーパーレス化に成功している。事前に資料を印刷して参加者に配布する必要が無くなり、会議中の発言やメモなどをその場でiPadに入力して、参加者全員がリアルタイムに共有するスタイルが既に定着しているという。

 小山社長は、iPadやFileMakerの導入効果として社員の残業が減少した点も高く評価する。「社員が残業をするのは、上司が職場に残っているからです。以前なら帰社後に日報を作成して、上司に提出することが当たり前でしたが、今ではiPadに入力してメールで上司に報告できるようにしました。当社では私を含めた幹部社員のスケジュールを社員に公開していますので、社員はそれを見て判断すれば良いわけです」(小山社長)

U-NEXUSの上野敏良代表取締役社長

 同社でのiPadの本格活用がスタートしてまだ1年足らずだが、既に250台のiPad miniを導入して、ほぼ全社員が業務に活用するスタイルがおなじみになりつつある。そうした成果の秘密は、組織の枠を超えて新しい取り組みをすぐに実行する同社ならではの企業文化にあるという。例えば、iPadの活用でも社員が発案した便利な使い方を発表し、全社員が投票して評価する。評価の高いアイデアはすぐに横展開され、全社に広がる。

 「最初から成果を目指すのではなく、『まずやってみよう』というのが私の信条です。進めながら改善すれば良いわけで、細かい部分での取り組みは幹部や現場の社員に全て任せています」(小山社長)。U-NEXUSの上野氏も「課題解決に向けた新たな取り組みを小山社長に相談して方向性が決まると、その場で『では任せます』と即決されています。その分、納期も早いので全社を挙げてがんばっています」と話す。

 今年6月からは武蔵野の社員がU-NEXUSに出向し、武蔵野社内でのFileMaker担当者となるべく、U-NEXUSと共同で主にユーザーインタフェースに関する開発作業を取り組んでいる。将来的にU-NEXUSで開発する業務アプリケーションを、武蔵野の社員が自身の手でより良いものにしていく体制を実現するのが狙いだ。今後は、もう1つの主力事業であるダスキンのフランチャイズ事業やホームインステッド事業でもiPadとFileMakerを使ったシステムを既にテスト中で、近く本稼働する予定だという。

 武蔵野におけるiPad活用では、小山社長と全社員が参加する企業文化、そしてU-NEXUSとの二人三脚による取り組みがこうした成功につながっているようだ。

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