約9000隻の船舶の安全をクラウドで支える日本海事協会世界につながる“海事クラウド”(2/2 ページ)

» 2013年12月17日 08時00分 公開
[國谷武史,ITmedia]
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世界単一市場での強み

 ClassNKのように産業界で中立的な機関がクラウドサービスを世界規模で運用しているケースは珍しいといえる。その理由を高野氏は次のように語る。

 「海事産業は世界単一のマーケットになっており、日本のその他の産業よりも早い時期からグローバル競争に晒されてきました。しかし、日本には造船、舶用機器や海運において世界トップクラスの企業が多数あり、関係学会や政府・団体の取り組みも活発です。海事産業に関わる全ての機関が団結して世界で戦ってきた歴史があります」

 近年は韓国や中国の造船業の台頭ぶりが目立つが、品質、安全性や環境性能などにおいては日本がリードしているという。こうした世界単一市場で、ClassNKはクラウドサービスのより高度な活用によるサービス提供を通じ、日本の海事産業のアドバンテージをさらに高めることに貢献していく考えだ。

 研究開発推進室 事業化推進リーダーの森谷明氏は、ClassNKではクラウドサービスを4つのステップ――(1)シップリサイクル、(2)アーカイブセンター、(3)保守管理システム、(4)運航支援――で推進していると説明する。2012年に着手したのが、船舶保守管理システム「CMAXS」の展開だ。

事業化推進リーダーの森谷明氏

 「かつての船舶保守は技術者の経験や感覚が頼りだったものの、現在は機関室を丸ごと管理できるようなシステムの提供など、付加価値化が求められている。技術者のスキルやノウハウをシステムで支援することで、例えば故障する可能性がある機器を把握し、事前に部品を交換することでトラブルを未然に防ぐ予防保全が可能になります」(森谷氏)

 ClassNKは、造船所のジャパンマリンユナイテッド(JMU)や舶用エンジンメーカーのディーゼルユナイテッド(DU)、日本IBMと共同で2012年4月に船舶保守管理システムの共同研究をスタートさせた。船内の機関室などに配置された多数のセンサから稼働状態などの情報を収集し、船内で解析するとともに衛星回線を経由して陸上のセンターで管理する。

 システムは、JMUの船舶情報管理システム「ADMAX」やIBMの資産管理システム「IBM Maximo」、DUの機関室の機器診断のノウハウを組み合わせて開発された。サービス提供は2013年に開始され、利用船舶の情報の蓄積やさらなる活用方法の検討などが進められている。

クラウドサービスの展開における4つのステップ(ClassNK資料より)

 さらに今後は、同システムをベースとして船舶の効率的な運航を支援するサービスの実現を目指す。その背景には船舶に関する環境規制の強化や燃料コストの高騰などがあり、「蓄積したデータを分析することで、約9000隻の船舶それぞれに安全で効率的な運航を可能にする情報を提供できるようにしたいですね」と森谷氏は話す。

 高野氏は、クラウドを活用した情報サービスが日本の海事産業だけでなく、日本の産業全体の振興にもつながることを期待する。多くの産業がグローバル競争に直面するようになった今、日本としての競争力の維持・拡大には、“ALL JAPAN”体制でこうした公共性の高い仕組みを世界に向けて発信していくことが不可欠だ。

 なお、前述したように船舶のライフサイクルは30年にもなるが、IT環境は短期間で目まぐるしく変化してしまう。高野氏は、「30年にわたる船舶をサポートしていくためのIT環境をどう実現していくかというのが今の課題です。船級協会は、ステークホルダーからの信頼によって成り立っているので、われわれが提供するクラウドでもその信頼に応えなくてはならなりません」と語っている。

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