F1参戦半年前から始まった、ケータハムF1のITシステム構築Computer Weekly

F1参戦を半年後に控えたケータハムF1には、ITもなく社員も6人のみというありさま。ここから風洞シミュレーションなどのシステムを構築するためにケータハムが選んだパートナーとは?

» 2014年01月22日 10時00分 公開
[Jim Mortleman,ITmedia]
Computer Weekly

 目まぐるしく変化するフォーミュラワン(F1)の世界を支配しているのはテクノロジーだ。世界一速いレーシングカーを設計し、最適化してレースに出場するには、最高のスーパーコンピュータの能力をはじめ、予算が許す限り多くの専門家のスキルと専用の設備が必要だ。

Computer Weekly日本語版 2014年1月8日号無料ダウンロード

本記事は、プレミアムコンテンツ「Computer Weekly日本語版 2014年1月22日号」(PDF)掲載記事の抄訳版です。本記事の全文は、同プレミアムコンテンツで読むことができます。プレミアムコンテンツのダウンロードにはTechTargetジャパンへの会員登録(無料)が必要です。

Computer Weekly日本語版 2014年1月22日号:Amazon Web Services vs. Googleダウンロードページへ

なお、同コンテンツのEPUB版およびKindle(MOBI)版も提供しています。


 チームには、世界中どこへでも持って行ける強力な機材だけでなく、どんな作業にも対応できる通常のキット一式も必要だ。驚くにはあたらないが、常に上位の成績を残すチームは資金が潤沢なところが多く、ケータハムF1のような、やや小規模のチームがそんなチームと戦うには、より創造力を働かせるしかない。

 ケータハムは2010年からF1に参戦し続けているチームだ。2010年時点のチーム名はロータスレーシング(Lotus Racing)、のちにチームロータス(Team Lotus)となり、さらに2012年、マレーシアの起業家、トニー・フェルナンデス氏が英国を象徴するスポーツカーメーカーであるロータスを買収してからは現在の名前で参戦している。

 ITマネジャー、ビル・ピータース氏は2009年10月にケータハムに加わった。それまではF1の強豪チーム、マクラーレンに12年在籍していた。「入社当時、チームには他に5人しかおらず、私は6番目の社員だった。私が案内されたチームの拠点は、ノーフォークにあるがらんとした大きな納屋だった。ITもなければ人もいない。おまけにその時点で、2010年シーズン最初のレースまでたった半年しかなかった」とピータース氏は当時を振り返る。

 チームに与えられた条件を理解した上で猛烈な速さでチームを建て直し、チーム本来の活動に専念できるようにするには、チームに共感して、エンドツーエンドのソリューションを提供してくれるハイテク企業が必要だと、そのときピータース氏は気づいた。

Dellとの提携

 ひとまず「間に合わせの」調達作業を済ませた後、同氏は「どの会社よりも輝いているように見えた」米Dellに連絡を取った。ケータハムとDellとの関係はこうして始まり、この提携は多くの実を結んだ。両社の連携は年を追うごとに強化され、Dellはついに2013年、「Computer Weekly大賞」(ヨーロッパのデータセンター部門)を受賞した。

 「まず、作業環境を整えなければならなかった。電子メール、コラボレーションツール、イントラネットなどの基本的なビジネスツールをゼロからそろえた。加えて、車両の設計者用の高性能ワークステーションと、それに付随するストレージなどのシステムも必要だった。さらに、サーキットに持ち出して使うために、小型化した作業環境も必要だった。その上、われわれはファクトリーで風洞をシミュレーションするCFD(数値流体学)を利用するので、スーパーコンピュータも必要だった」とピータース氏は語る。

 ケータハムと密接な連携を進めたDellは、必要とされたものをわずか22週間で全て設計し導入した。その中には、米IntelのXeonプロセッサを搭載したDell PowerEdge M610ブレードサーバ160台と、ハイパフォーマンスコンピューティング(HPC)クラスタの構築も含まれる。そして、ケータハムはレースへの参戦体制を整えることができた。この環境があればチームは毎秒16万3398個の演算を実行できるので、週末のレースで発生する20Gバイトのデータも処理できる。

仮想化環境をポータブルとして活用

 トラックサイド環境も一新した。「マクラーレンなど他のチームは大抵、高度にカスタマイズしたキットを使用するが、われわれは既存の仮想化環境を、購入した際の構成をあまり変えずに流用した。つまり、われわれがトラックサイドに持ち込むのは、5台のサーバを搭載したフルサイズのラックではなく、ハーフサイズのサーバラック1台だけだ。この機材は世界中のサーキットに運ぶことになるが、航空貨物の輸送費は荷物1キロ当たり250米ドル掛かる。輸送費を削減できたことも新しいIT環境がもたらした効果の1つだ」とピータース氏は説明する。

 ファクトリー内の作業環境にも仮想化を導入している。ピータース氏によれば、これで管理作業を簡素化できたばかりでなく、データセンターのフットプリント(機器の設置面積)の削減も達成したため、HPCシステムのスペースを最大限に拡張できたという。「これはわれわれにとって非常に重要なことだった。風洞シミュレーションは、これまでで最大規模の、最も重要な投資だから」とピータース氏は語る。

 ケータハムは最初のプロジェクトからDellとの建設的な協業を継続し、ファクトリー環境を丸ごと従来のノーフォークからオックスフォードの新拠点に移設したばかりか、システムの改善と最適化にも取り組んだ。

 「拠点を移転するまでに多くのプロセスを一緒にこなしてきたから、移転のあわただしい作業も短期間で完了できた。プロジェクトの開始からわずか3カ月で、従業員が新しい拠点で作業を開始できる状態にまで持っていくことができた。IT業務に30年間携わってきたが、私が関与した中で最もスムーズに進行できたプロジェクトだった」とピータース氏は語る。

大きな野望

 暑い国の冷房設備もない場所でレースが開かれることもあるので、システム開発の最新のプロジェクトには、そこで遭遇する高温と極限状況に対応するための、トラックサイド環境のレジリエンス(システム回復性)の向上などが含まれている。過去数年間、Dellはケータハムとの協業を通じてシステム統合以外の作業にも関与し、可用性とキャパシティー管理を改善してきた。

 ケータハムはまだレースで勝利を挙げていないが、より大規模で資金も豊富なチームとレースの成績を比べてみると、チームのテクノロジーは確実に出資以上の効果を挙げつつあるとピータース氏は語る。同氏は将来に対して明るい展望を抱いている。「2014年にはF1レギュレーションの大きな変更がある。これによってある程度は競争上の公平性が保たれて、われわれのような小さなチームもより公平な条件下で戦える状況になる。2014年はミッドフィールドに食い込もうと、固い決意を持ってレースに臨む。目標はもちろん、世界選手権で勝つことだ。私は他のチームにいたときにそのポジションを経験してきたし、最終的にはこれこそわれわれが目指していることだ」(ピータース氏)

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ