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» 2014年01月31日 08時00分 公開

萩原栄幸の情報セキュリティ相談室:「バカッター」投稿者の個人情報を暴く行為について考える (2/2)

[萩原栄幸,ITmedia]
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事実誤認の可能性

 昨年、筆者は座長を仰せつかった学会の公開討論会で「警察の誤認逮捕」をテーマにした。そこでの観点はこうだ。スピード違反をした車の所有者を警察が逮捕したことについて、当時の警察はPC所有者のナンバープレート(IPアドレス)を頼りに所有者を誤認逮捕した。つまり、「PC所有者が実行為をした」と警察が推定してしまったのである。「バカッター投稿」をしたID保有者の本人の個人情報を暴く行為も、これと同じようなものではないだろうか。

 「バカッター投稿」をしたのが本人なら、確かに問題があるだろう。「バカッター投稿を正したい」という「正義の味方」と称する人の思いは分からなくもない。しかし、「正義の味方」と称する人たちが自分の責任において事実関係を調査しているかは疑わしいし、仮に本人だったとしても、その個人情報を勝手に晒すことが適切な行動ではないだろう。その行為自体が法的に認められているとは考えられない。せめて、「善良な市民」として警察のサイバー犯罪担当者に連絡すれば十分ではないだろうか。当人は「それでは甘すぎる」という感覚なのだろう。その感性そのものが「私刑(リンチ)」を生む土壌となっているのに気が付いていない。

 前述のメール内容を信じるなら、投稿したIDを持っている子どもは友人たちと悪ふざけをしていても、実際に投稿はしていない。これが事実かは分からないが、少なくとも可能性としてはあり得る。その可能性に目を向けることなく、「正義の味方」と称してID保有者の個人情報をむやみに晒すことは「私刑(リンチ)」そのものだと思う。バカッター投稿者への「私刑(リンチ)」は過大な悲劇しか生まないと思っても差し支えないだろう。

 こうした事象が起こる度に筆者は、インターネットにおける行動規範(ネチケット)の合意形成をすべきだと思って止まない。小学校や中学校が年少者に適切な教育を行うことを真剣に検討すべきだと感じている(既に一部の教育者は検討・実践されている)。前述のメールの場合なら、きちんと「誰がいたずらをしたのか?」「関係したのは誰か?」「投稿したのは誰か?」「この行為は承諾を得ていたのか?」――様々な論点がある。きちんと事実関係を踏まえるべきだが、しかし、それは赤の他人がする仕事ではない。

「バカッター」投稿者への警告

 昨年、仕事で商工リサーチを調査した際に「バカッター」投稿事件の“その後”を見つけた。それは、アルバイトがそば屋の洗浄機に顔を突っ込んだ画像を投稿したことの影響で倒産した企業の「倒産速報」であった。

 その後、「日経ビジネス」に掲載された記事から、この事案に驚くべき裏側が分かった。この会社の女性代表者から届いた手紙で明らかになったということだが、記事によれば、代表者の夫がこの事案の起きる1年ほど前に自殺し、代表者が経営再建のために奔走していた。ようやく再建が軌道に乗り始めた矢先にアルバイトが「バカッター」投稿を行い、倒産に至ってしまった。このアルバイトがした「悪ふざけ」は、経営再建のチャンスを奪い、代表者のがんばりを踏みにじった。

 現在は破産手続き中とのことだが、アルバイトがした行為の代償は自分自身と両親が背負うことになるだろう。今後手続きが終了し、事件が風化しても、その心の傷は代表者や親族から絶対に消えることはない。代表者からの手紙には、アルバイトを「一生許すことは出来ない」とつづられていた。

 「バカッター」投稿をした後に後悔しても既に遅い。未成年だからといっても許されないのである。こんな悲劇を絶対に繰り返してはならないのだ。

萩原栄幸

日本セキュリティ・マネジメント学会常任理事、「先端技術・情報犯罪とセキュリティ研究会」主査。社団法人コンピュータソフトウェア著作権協会技術顧問、CFE 公認不正検査士。旧通産省の情報処理技術者試験の最難関である「特種」に最年少(当時)で合格。2008年6月まで三菱東京UFJ銀行に勤務、実験室「テクノ巣」の責任者を務める。

組織内部犯罪やネット犯罪、コンプライアンス、情報セキュリティ、クラウド、スマホ、BYODなどをテーマに講演、執筆、コンサルティングと幅広く活躍中。「個人情報はこうして盗まれる」(KK ベストセラーズ)や「デジタル・フォレンジック辞典」(日科技連出版)など著書多数。


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