JALの「ターゲティング広告」を成功に導いたビッグデータ分析とは?単価が高まる”ルール”を発見(2/3 ページ)

» 2014年10月28日 16時30分 公開
[池田憲弘,ITmedia]

“統計学”は仕事の役に立たない?

 同社が「SPSS」を導入したのは2011年12月のこと。一般的にSPSSを使った分析というとハードルが高いように思えるが、渋谷氏は“そうではない”と語る。

 「確かにSPSSのなかでも『SPSS Statistics』は扱いが難しい。統計を学んだ人間でなければ無理でしょう。しかしモデリングでの仮説検証を簡単に行える『SPSS Modeler』ならば話は別。いわゆる“文系”の人間でも半年ほど使えば、使いこなせるようになります」(渋谷氏)という。

 渋谷氏のデータ分析への思いとして「統計だと意識させずに分析してもらう」というものがある。これは渋谷氏自身が統計を学んでいた経験から生まれた考えだ。仕事を通じて、学術的に学ぶ統計学は“実務では役に立たない”と感じたそうだ。

 「2つの数値の差に意味があるかどうかを検定する。統計学ではそんな分野も出てきますが、このビッグデータ時代において、それは無意味です。データのサンプルが多くなれば、両者の差の真偽が“判定できない”という状況がなくなるためです。実務で一番使うのは『多変量解析』と『データマイニング』。施策に最もつながりやすいからです。特に最近の若手は学生の頃からExcelやAccessを使ってスプレッドシートには慣れている。すぐにSPSSを使いこなせるようになるんですよ」(渋谷氏)

photo JALのターゲティング広告システムの全容。データベースに蓄積されたデータをSPSSで分析している

現場の「仮説」を大事に

 データの分析においては「現場の声を大事にする」のも重要なポイントだと渋谷氏は話す。なぜなら、現場の人間こそが分析を始めるきっかけとなる「仮説」を持っているためだ。

 「現場の人なら大体『こうすれば売り上げが上がるんじゃないか』というような仮説を持っているはずです。それを分析するのが大事なこと。当たり前と思っていたことでも、データで証明されればコストをかけて施策を打てるのですから。一方で、現場の感覚が実情と離れているケースもありました。女性向けに作ったWebサイトに誘導するために、女性の客室乗務員がが映ったバナーを作ったらオジサンしかクリックしてくれなかった、みたいな(笑)。分かりやすい話ですが、現場の人間はそれに気付いていなかった。そういう点をあぶりだすのもデータの役目です」(渋谷氏)

 現場の声を拾い、検証を繰り返す。これがビジネスにおけるデータ分析の基本だ。なので、現場の人間が“困っていること”を積極的に聞きにいく姿勢もデータサイエンティストには求められるという。「外部に出せるような成功事例は10個施策を試して、1つぐらいしか出てこないもの。しかし、こうやって繰り返し検証して得られた知見が最大の価値なのです」(渋谷氏)

 日本でもこうした成功事例が生まれつつあるが、それでもまだデータサイエンティストは少ないのが実情だ。しかし渋谷氏には、“普通の会社”でもデータサイエンティストを増やす方法があるという持論があった。

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