現在、宇宙ビジネスの最前線で活躍するのは、ベンチャー起業家や投資家が中心だ。彼らはいかにしてこの新市場を切り拓いたのだろうか?
前回までは、宇宙ビジネスの最新動向やそれを取り巻く企業の動きを中心に紹介してきた。今回はこの分野の開拓者と言える起業家や投資家に焦点を当てたい。
イーロン・マスク、ラリー・ペイジ、ジョフ・ベゾス、リチャード・ブランソンなどテクノロジー&ビジネス界の大物が、我先にと宇宙ビジネスに投資しており、その投資領域は多岐に渡る。その中でも本分野のリーダーとして注目を集めているのが、イーロン・マスク氏、スティーブ・ジャーベソン氏、ピーター・ディアマンディス氏だ。
イーロン・マスク氏は昨今メディアで話題となっておりご存じの方も多いと思う。電気自動車ベンチャー、米Tesla motorの創業者であり、今年9月には新車発表会に合わせて来日して話題になった。そのマスク氏、実はロケット打ち上げサービス企業、米SpaceXの創業者でもあり、本分野の第一人者なのだ。
1971年に南アフリカで生まれたマスク氏は、カナダ経由で米国にわたり、スタンフォード大学を中退してIT企業の米Zip2を立ち上げた。同社を売却した後、今度は米Paypalの前身となる米X.comを立ち上げて米eBayに売却。これらで得た資金で2002年にSpaceXを創業した。2008年に初のロケット打ち上げに成功し、NASA(アメリカ航空宇宙局)と国際宇宙ステーションへの物資輸送・有人輸送機開発契約を、総額40億ドル以上交わし、加えて50%以上が米国政府以外の顧客だ。さらに火星移住計画を掲げるなど、今や米国を代表する起業家だ。
マスク氏は「2008年が転換期だった」と語る。当時SpaceXが開発した「ファルコン1」は2006年以降に3回連続で打ち上げに失敗。資金も底を尽きかけ、次に失敗したら破たんという状況に追い込まれた。時を同じくして、Teslaも経営状況が悪化していた。
まさに崖っぷちの状況の中、4回目の打ち上げで成功にこぎつけた。当時、マスク氏を陰で支えたのが後述する投資家、スティーブ・ジャーベソン氏である。Teslaへの投資をきっかけにマスク氏と関係を築いていたジャーベソン氏は、SpaceXにも2009年の投資ラウンドで参加して以降、フォロー投資を続けているという。
以前、マスク氏は世界的な講演会である「TED」に出演した際には、イノベーションを起こすための思考法として、よく使われがちなアナロジー(類推)的思考よりも、本質的な真理を追求する物理学的思考の重要性を説いている。また「才能ある起業家やベンチャーキャピタル(VC)はネット以外の分野にも目を向けてほしい」と語るように、ものづくりへの思いも深い。
実際、自らSpaceXのチーフデザイナーとして低価格ロケットの開発や設計を主導してきた。ロケットエンジンに安定した枯れた技術を活用し、モジュール構造とすることで量産効果を実現した。また、主要部品の80%以上を自社工場で内製化して外注コスト低減と品質管理を徹底するなど、従来の業界常識を覆すものづくりでイノベーションを起こし続けているのだ。
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