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» 2015年01月14日 08時00分 公開

“わがまま(快適)な買い方“を実現したその裏側:老舗メガネチェーンが挑んだ、「先攻型オムニチャネル」の考え方 (2/2)

[小川和也(グランドデザイン),ITmedia]
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小売店は「ショールーミングに悩んでいる」だけでよいのか?

 ECプレイヤーの台頭によって、実店舗で商品をチェックし、購入はネット通販で行う、いわゆる「ショールーミング」の客行動が顕在化した。ネットでも買える商品を売る実店舗・小売店は、その存在意義を高める必要性に迫られることになる。そこではじめて「オムニチャネル」という概念を意識したという小売店の話をよく聞く。その意味では、一般的に小売店舗によるオムニチャネルへの取り組みは、前向きな事前対策というよりもAmazonに代表されるECプレイヤーへの対抗上打ち出した“後ろ向き”な事後対策であることは多い。

 しかし、度付きメガネのように、店舗での検査を要するなど、ある程度来店の必然性があるサービス付加価値型商材のモデルでは、「ショールーミング」のリスクは比較的に少ない。このため、ECプレイヤーに事後的な対抗をするのではなく、先を見越して積極的な取り組みを展開していける。同社のEC強化の方向性は、その典型だ。

 メガネスーパーにおいては、オムニチャネル戦略を「実店舗、PC、スマホ、電話など、どの顧客接点からも、同様の商品やサービスに顧客がアクセスできるようなチャネルのあり方」と定義している。その観点から、接客サービスも高度化し、店頭でのタブレット端末を活用した接客におけるユーザインタフェースの最適化や、店舗・EC・電話注文の全チャネルでデータ一元化を図り、店舗にない商品の顧客直配、そしてEC購入商品の店頭受け取りやEC会員の店頭でのキャッシュレス決済を実現している。

photo メガネスーパーによるオムニチャネル戦略の図解

 同社の束原氏は「オムニチャネル戦略におけるデータの重要性」を強調しており、その活用に注力している。スクリーニングを経た600万人の顧客データ、DMP(Data Management Platform:生成されるログやネット上のビッグデータなどを一元管理し、分析し、その後のアクションプランを定めるための基盤)の整備と活用をカギと位置付け、それによる各種ダイレクトメールや広告配信展開手法を実際に改善したことで、顧客購入単価や購入頻度の向上などに結実してきたという。

 特に印象深かったのは、同社はビッグデータという流行ITキーワードに振り回されることなく「地に足がついたデータ活用の視点を持っていた」ことである。「あくまでもデータはお客様を深く知るために使うもの」であり、やみくもなビッグデータの活用は追求しない。色、素材、形、度数などの購買(POS)データ、検査(メディカル)データ、属性データを多重に分析することで、大きな成果が出せると考え、着実なデータ活用に取り組んでいる。

 例えば蓄積した検査データからでも、老眼になるタイミングを予測したり、週にどれくらいスマートフォンを使うかなどに関連した問診を属性データとして保有すれば、特定の顧客へ最適なメガネを、最適なタイミングで提供、提案できる。今後は眼科との連携も強めて、客の治療経過や目の状態に適した“今”最適なメガネを提案できるようにすることを目指している。

 「オムニチャネル戦略においても、データは最大の財産です」(束原氏)。

 具体的には、顧客のEC上の行動履歴を店舗でも把握できるようにし、それを接客に生かすようなアプローチや、どの顧客接点からも顧客が同様に商品へアクセスできるようにするために、在庫のバッチ処理からリアルタイム把握に移行し、在庫を機動的に再配置できるような試みに熱を注ぐ。オムニチャネル化で顧客の接点が多様化するにつれ、在庫の配分は重要なポイントとなる。その最適化により商品の売り逃しを防ぐ仕組みづくりが直近の急務なようだ。

オムニチャネルは、「オンラインとオフラインのかけ算」のバランスが大切

 特徴の異なる多様な顧客に最適なメガネフレームを提供するとなると、どうしても多品種少量生産にならざるを得ない。これを実店舗だけで販売するなら、在庫管理の観点でも難しい面がある。この点、ECをうまく併用できればロングテールな対応も可能になる。

 「オムニチャネルを成功させるために重要なことは、オフラインとオンラインのかけ算のバランスと考えています」(東原氏)。そのバランス調整に深く配慮している。

 確かに、顧客の利便性は必ずしもすべてネットで完結することではない。事前のオンライン予約により実店舗で待たずに済んだり、実店舗とオンライン、それぞれのよさを生かした組み合わせの方が実は快適なことは多い。そもそもEC利用率は高かったコンタクトレンズにおいても、ネットで事前に注文し、実店舗へ受け取りにくる人が2割程度もいるという。この意味で、「お客様にとって一番わがままな使い方をできるようにすること」をオムニチャネル成功のポイントに据える同社の、オフラインとオンラインのバランス調整術には一日の長があるといえる。

 同社は、2014年6月にメガネ・コンタクトレンズチェーンでありながら、単にメガネやコンタクトレンズを販売するにとどまらず、「眼の健康寿命」を延ばすために必要なあらゆる解決策=商品・サービスやアドバイスを提供する企業として「アイケアカンパニー宣言」を掲げた。2014年7月には、業界初の取り組みとして、白内障治療術後の度数変化によるレンズ交換に対応した一生涯保証サービス「シニア見え方安心パック」を開始するなど、今後もシニア、ミドルシニアに向けたさまざまなアイケアサービスや商品も拡充していく考えだ。

 「ECのインフラ」「アイケアカンパニーとしてのシニア・ミドルシニア世代へのサービス」「600万人以上の顧客データ」を強みとし、オムニチャネルに取り組むことで、売上向上と顧客満足度の向上を図っているメガネスーパー。今後の同社のオムニチャネルの展開を注視していきたい。

小川和也氏プロフィール

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慶應義塾大学法学部卒業後、大手損害保険会社勤務を経て、2004年グランドデザイン&カンパニー(現グランドデザイン)を創業、代表取締役社長に就任。西武文理大学特命教授。

数々のITベンチャービジネスの立ち上げや、デジタルマーケティングディレクターとして、大手企業や行政、アーティスト等の先端的デジタルマーケティング事例を数多くつくり続けている。著書、講演、メディア出演多数。ビジネスだけではなく、デジタルと人間や社会の関係の考察と言論活動を行なっている。主な著書に、日本で初めて同タイトルの概念をテーマとした著書『ソーシャルメディアマーケティング』(共著・ソフトバンククリエイティブ)や、人間に大きな恩恵をもたらす一方で不思議な違和感をも生むデジタルの不気味さといかに向き合うべきかを説いた『デジタルは人間を奪うのか』(講談社現代新書)など。



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