多階層化が進む健康医療分野のICTとセキュリティビッグデータ利活用と問題解決のいま(1/3 ページ)

金融業界と同じく、健康医療分野でもビッグデータ活用などを通じたイノベーションが急速に進みつつある。一方でセキュリティやリスクに対する懸念も高まっているが、どのような取り組みが行われているのだろうか。

» 2015年04月22日 08時00分 公開
[笹原英司ITmedia]

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 国内で2014年11月に、「医薬品医療機器等法」が施行され、再生医療製品、医療ソフトウェアなどのカテゴリーが追加された。「健康長寿社会」の実現、医薬品・医療機器産業の国際競争力の強化が叫ばれる中、健康医療分野のICTではどんな変化が起きているのだろうか。

インフラからアプリへ発展する米国の健康医療分野

 前回の記事で、金融業界における人工知能を活用したビッグデータプロジェクトへの取り組みに触れたが、同様の動きが医療業界でも起きている。2015年4月13日に米IBMは、ヘルスケア関連のユーザーデータをウェアラブル端末からクラウドに収集して、「Watson」によるビッグデータ解析サービスを提供する「Watson Health」部門を立ち上げた(関連記事)。

 これに合わせて同社は、米国屈指の医療機関Cleveland Clinicからスピンオフしたクラウド型医療ビッグデータ分析企業のExplorysと、地域医療向けにSaaS型の統合集団健康管理ソフトウェアを手掛けるPhytelの買収を発表している。

 また、2014年7月に企業向けモバイルサービスでIBMと提携したAppleも、2015年3月にiPhoneユーザーの医療研究を支援するオープンソースのソフトウェアフレームワーク「ResearchKit」を発表した(関連記事)。クラウド、モバイル、Internet of Things(IoT)、ビッグデータの融合により、健康医療イノベーションを巡る競争がICTインフラから上位レイヤのアプリケーションサービスへ急拡大している。

市民参加を活用する行政機関

 他方、健康医療を所管する行政機関の間では、市民参加とビッグデータで社会課題の解決を目指す動きが活発化している。

 例えば、市民主体の「シビックテック(Civic Tech)」を活用した食中毒対策をみると、本連載の第9回記事で取り上げたシカゴ市の「Foodborne Chicago」のほか、ソーシャルメディア「Yelp」を活用したニューヨーク市の取り組み(関連情報)などがあり、こうした動向を通じて、ベストプラクティスの経験やノウハウの共有、アプリケーションのオープンソース化が進み、行政区画の壁を越えた横への展開を広がりつつある。

 中央政府のレベルでは2014年9月、米国食品医薬品局(FDA)が、技術・教育・科学分野における競争力とイノベーション力の強化支援を目的とする「2010 年米国COMPRETES創造再授権法」に基づいて、サルモネラ菌を対象とする食中毒の病原体検出をテーマに、初のオープンイベーションコンテスト「2014 FDA Food Safety Challenge」を開始した。

 またFDAは、2014年5月の「米国オープンデータ行動計画」(関連PDF)に基づくオープンデータ/ビッグデータ推進策の一環として、医薬品・医療機器の表示、副作用情報、リコール情報などを公開する「OpenFDA」を展開している。

米国食品医薬品局が展開する「OpenFDA」

 日本の厚生労働省や医薬品医療機器総合機構(PMDA)が、統計データや分析結果をPDFやExcelで一方向的に提供するレベルで留まっているのに対し、「OpenFDA」は、オープンソースのAPIを公開しているほか、「Open source on GitHub」「Q&A on StackExchange」「@openFDA on Twitter」など、外部のソーシャルメディアと連携した双方向型コミュニケーション機能の拡充に注力している、ユーザーインタフェースやユーザーエクスペリエンスを重視する傾向も強まっている。

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