わたし 「は? ピンボック? ピンボールなら知ってるけど……」
Aさん 「プロジェクトマネジメントに関する知識体系のことだよ」
真面目な話をしている時のAさんは、細かいボケを拾おうともしない。
Aさん 「PMBOKとはね、たしか……」
Mくん 「PMI(Project Management Institute)というアメリカの団体がまとめたものですよ、先輩。今は第5版になってるんです」
突然、Aさんの話に割って入ってきたのは資格オタクのMくん。偶然、同じ店で飲んでいて、「PMBOK」という言葉に反応して振り返ったら私たちがいた、ということらしい。
Mくんは、私が新入社員研修を担当したときに参加した1人。妙になつかれていて、今では私の後輩として同じ部署にいる。彼が資格オタクと知ったのはつい最近で、なんでも、20種類以上の資格を持っているらしい。
Mくん 「PMBOKは、いわばプロジェクトマネジメントの世界標準の教科書みたいなものなんです。そうだ、せっかくだし、僕も一緒に受けようかな」
わたし 「受ける? PMBOKって、教科書なんじゃないの?」
Mくん 「その知識をちゃんと持っているかどうかを証明するための、資格試験があるんですよ」
Aさん 「PMP、という資格があってね。まぁ、資格を取るかどうかはともかくとして、現在はPMBOKに従ってプロジェクトを管理することが望まれているのは確かだね。IT業界のみならず、製薬業界や建設業界でも注目されているんだよ」
Mくん 「どうせ勉強するなら、資格を取るつもりでやればいいじゃないですか。先輩、一緒に受けましょう! 資格はいいですよー」
資格のどこがいいっていうの? 3年ほど前、資格を取るのがブームになった時期もあったけど、ウチの会社は社員に資格取得を勧めている割には、研修費用を負担してくれない。会社が「取れ」と指示した資格は、受験料くらいは出してくれるんだけど。
あ、そういえば、Aさんも資格マニアなのを思い出した! Mくん、Aさんの「スイッチ」を入れなきゃいいけど……。
A子 「そういえばMくんって、資格をいくつ持ってるの?」
あちゃー、A子、そんなアシストいらないよ。
Mくん 「えーと、 FE(基本情報処理技術者)にAP(応用情報処理技術者)、MOT(Microsoft Official Trainer)、CCENT(Cisco Certified Entry Networking Technician)、それに英検2級、特殊小型船舶、それから……」
A子 「特殊小型船舶?」
Mくん 「ああ、水上オートバイの免許です。正しくは、特殊小型船舶操縦士って言うんです。普通のボートには乗れないんですけどね。実は趣味でサーフィンをやってて……」
あぁ、先にMくんのスイッチが入っちゃったよ。
Aさん 「ふうん、今はそんな免許があるのかぁ。私の時代は、4級船舶(4級小型船舶操縦士)だったな。私も、あれこれ50近い資格を持ってるぞ。実は釣りに凝っていた時期があってね……」
ついにAさんのスイッチも入っちゃったか……。というかAさん、若手のMくんと張り合ってどうする。
とまぁ、こんな会話が続いて、いつの間にか「どうせ学習するなら資格をとりましょう!」というMくんの言葉に(私以外の)みんなが同調し始めている。
Aさん 「じゃ、せっかくだからPMP、受験してみたら? というか、するよね」
え、するよね? って……。
Aさん 「今回のプロジェクト、失敗するわけにはいかないし、これからのヘルプデスク業務の中心にいてほしいキミには、ぜひともしっかり勉強してほしいんだよ。資格をとれば、勉強したことの証になるし、励みにもなるだろう?」
いえいえ、プレッシャーになるだけです……
Aさん 「受験するからには、上司として協力するよ。とはいえ、おおっぴらに研修費用を出すとは言えないから、まずはeラーニングを……」
やんわりと、しかし、しっかりとプレッシャーをかけてくるAさん。さすが上司。もはや私に拒否権はないみたい。いつの間にか、PMPも受験することになり、現在に至る……というわけ。
Aさんは、「市販のeラーニング研修を受けられるように手配する」と言ってくれたものの、それを受講すること自体にどんな意味があるのか、まだよく分からない。
しかも、始めるまでにはしばらく時間がかかりそうなので、予習も兼ねて参考書を読み始めたんだけど……第1章から難解な言葉のオンパレード。例えば、投資効果の分析手法として出てくる”NPV”という単語。これ、解説書には「未来の費用や収入を現在の価値に換算して評価する方法」って書いてあるけど、いったい、どう使うの?! いくらプロジェクトなるものを知らないとはいえ、参考書の第1章からつまずいているようでは、先が思いやられるなぁ。
私は在宅ヘルプデスク業務のプロジェクトを成功に導けるのか? そして、PMPの試験に合格できるのか? いや、そもそも、受験できるのか?
その結末は……今、これを書いている、この私自身にも分からないし、予想もつかない。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.