ベネッセは解決策として、育児休業者向けサイトの社内開発や、産休・育休社員に業務用PCを貸与することなどを検討したが、いずれもコストの面で見合わなかった。PCについては、もしコストの問題がクリアできても、それを渡してしまうと休業中にも関わらず仕事をしてしまう社員が出るのではないかという懸念もあった。
そこで候補として挙がったのが、エアリーダイバーシティの導入だった。個人のメールアドレスを登録し、招待メールを送ることですぐに利用でき、社員は休業中でもインターネット環境さえあればどこからでもアクセスできる。会社としては、利用人数による従量課金であるためコストを抑えられるという利点もあった。ASPサービスであるため導入の手間も少なく、情報システム部門によるセキュリティ面のチェックを経て、人財部だけで導入ができたという。
エアリーダイバーシティにはいろいろな機能があるが、ベネッセでは主に会社からの情報発信に利用している。事業の進捗や新サービス・商品に関する情報など、イントラネットで社員に共有されている情報の他、プレスリリースなど会社が外部に発信している情報も掲載されるので、産休・育休中の社員でも会社の動きを常に把握できるようになった。また、福利厚生や自己啓発費用の申請方法、子育て中の社員に向けた情報など、産休・育休中に知りたいと思ったことは、このサイト上でチェックできるようになっている。
4月に育休から復帰したコミュニティ開発部の室岡さん、営業開発部の飯島さんは、社内託児所の申し込みスケジュールなど、育休者にとって必要な情報をタイムリーに知らせてくれる点がありがたかったと話す。同じく4月に復帰したベネッセ教育総合研究所の田村さんは、サイトが導入されていなかったら会社の公式情報を自分で調べただろうが、会社の情報が集約されているエアリーダイバーシティがあって助かったという。
エアリーダイバーシティの導入はまた、“産休・育休中社員同士の交流”という、会社側が意図しなかった効果も生みだした。画面上に、現在参加しているメンバーの氏名が表示されるので、知り合いの社員が「実は育休中だった」と分かり、そこから連絡をとりあって情報交換が始まることもあったそうだ。
今どきの産休・育休中の社員は、出産と子育てという人生の一大イベントのまっただ中にいながら、会社に復帰する日のことを気にしながら日々を過ごしている人も多いという。一年、あるいはそれ以上の期間、会社から離れていると、社会から取り残された気分になったり、自分のスキルが通用するのか不安になったりするという話もよく聞く。
ベネッセの事例からは、彼女たちを“浦島太郎”にしないための情報共有や、離れていても同僚とのつながりを感じられるような仕組みがいかに大切かがよく分かる。
少子高齢化社会が進展する中では、社員が育児や介護、あるいは病気などで一定期間、現場を離れることも増えると予想され、これからの企業には、そうした状況下でも、“取り残された”ように思うことなく働ける環境作りが重要になるだろう。今回のベネッセの事例はその解決策のヒントになりそうだ。
1999年一橋大学卒。2009年デジタルハリウッド大学院修了。コクヨおよびベネッセコーポレーションで11年間勤務の後、フリーランスに。企業に対する教育系Webサービスやアプリの企画・開発支援を行うと同時に、組織人の新しい働き方、暮らし方を紹介するウェブマガジン『My Desk and Team』を運営中。さまざまな組織人にインタビューをし、多様な働き方、暮らし方と、それを実現するためのノウハウを紹介している。
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