ときにはこういう「思い込み」が、移り変わりの激しいITの世界では落とし穴になるのかもしれないと、今回の件で再認識しました。情報システム部の方からよく聞くのですが、ある程度知識のある「中級者」は新しい知識を習得するとき、ちょっと昔の知識が邪魔になることもあるそうです。
先日、編集を担当していた、セキュリティに大変詳しい(そしてPCにも詳しい)筆者さんとお話していて、「そういえば、最近のPCってBIOSがないの知ってましたか!?」という話題になりました。その驚きは、このブログにもまとめられています。「最近のパソコンにBIOSっていないって気づいていました? (株式会社ラック 公式ブログ)」
セキュリティにおいても常識が毎年のように変わっており、1年前の常識は非常識になることもあります。このとき、上記のブログを書いたラックの川口さんをはじめ、何人かのセキュリティに詳しい筆者さんたちともお話したのですが、「ウイルス対策ソフト」に関しても、昔の知識、ちょっと前の知識、そして今の知識がそれぞれ違っており、そのときの状況を踏まえた文脈が必要なのかもしれないと思いました。
例えば、昔の知識。Windows 95が登場し、その後フロッピーディスクを通じて感染するウイルスなどが登場。「ウイルス対策ソフトはPCを使う上では必須」という常識ができました。
そして時は経ち、2014年5月に「ウイルス対策は命が尽きた」という言葉が、ウイルス対策ソフトを作るベンダー自身から発せられました。これは大きな転機でした。もちろん、この発言の真意は、ウイルス対策ソフトだけで守るのではなく、「多層防御」という言葉で解説されるような方法で守るべき、という意味があります。
ともすると、いま販売されているウイルス対策ソフトを入れる意味がなくなったのでは?と思うかもしれません。おそらく、PCに詳しい人ほど、「最近のウイルス対策ソフトは検知するパターンの作成が後手にまわるから、最新の攻撃はすり抜けてしまう」ということを知っているでしょう。私も、同じ認識を持っています。
ところが、やはりこれもある種の「思い込み」のようです。ラックの川口さんは「それでも、今すぐウイルス対策ソフトの“フルスキャン”をやってほしい」とコメントします。通常、ウイルス対策ソフトはスキャンの負荷を軽減するため、新規に追加されたファイルや更新されたファイルを中心に、ピンポイントでのスキャンを行っています。しかし、それではなく“フルスキャン”を行うことで有効なセキュリティ対策になるとのことです。
もしセキュリティに自信が無い、という方は今すぐフルスキャンを行ってみてください。この流れでピンときた方はきっと上級者でしょう。理由が分からない、意味なんてあるの?と思った方、その理由は、アイティメディアがいま開催している「ITmedia Virtual EXPO 2015 秋」セキュリティEXPOにて公開されている「@ITセキュリティ筆者陣がホンネで語る“標的型攻撃”」をどうぞ。私もモデレーターで参加させていただきました。川口さん自身の言葉でその理由を語っています。思わず「なるほど」と思うはずですよ。
元@ITの編集者としてセキュリティ分野を担当。現在はフリーライターとして、ITやエンターテインメント情報を追いかけている。自分の生活を変える新しいデジタルガジェットを求め、趣味と仕事を公私混同しつつ日々試行錯誤中。
筆者より:
2015年2月10日に本連載をまとめた書籍『デジタルの作法〜1億総スマホ時代のセキュリティ講座』が発売されました。
これまでの記事をスマートフォン、セキュリティ、ソーシャルメディア、クラウド&PCの4章に再構成し、新たに書き下ろしも追加しています。セキュリティに詳しくない“普通の方々”へ届くことを目的とした連載ですので、書籍の形になったのは個人的にも本当にありがたいことです。みなさんのご家族や知り合いのうち「ネットで記事を読まない方」に届けばうれしいです。
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