第10回 システムが「壊れる」or「壊れない」、アジア諸国と日本の考え方の大きな違いとは?データで戦う企業のためのIT処方箋(1/3 ページ)

米国と欧州を比べてもITに対するアプローチは異なります。今回は成長著しいアジア諸国の状況をみながら、振り返って日本の状況と今後変えていくべきところ、伸ばすべきところを解説します。

» 2016年06月21日 08時00分 公開
[森本雅之ITmedia]

 IT分野では欧米に比べて後発のアジア諸国ですが、ITを積極的に取り入れている企業の利用方法は日本や欧米の企業のそれに引けを取りません。欧米と比較して日本から地理的に近く物価が安価ということもあり、日本企業、特に製造業は中国や東南アジア諸国に工場を展開しています。そのため、アジア地域のITインフラの動向を知ることは現地法人とのスムーズなやり取りにつながります。

 今回はアジア諸国のITアプローチの紹介と、前回紹介した欧米を含めた諸外国の状況から振り返った日本の現状、今後のIT投資において参考にしたい点を整理しながら紹介します。

先進アジア諸国のITアプローチ

 韓国や中国、シンガポール、マレーシアなどアジア各国の状況が欧米や日本と比較して一番に違う点は、IT導入の歴史においてメインフレームがほとんど導入されることなく、直接オープンシステム(UNIXやWindows、Linux)でスタートしていることにあります。

 欧米や日本では、ビジネス業務の自動化、効率化を目的としたコンピューティング利用が、まず堅牢なメインフレームによるシステムで始まりました。その後、より安価な基盤としてオープン系システムが成熟するのに伴い、メインフレームで利用していた業務を移植するオープン化が進んできました。現在では、銀行の基幹系業務といった非常に高速かつ確実な処理が必要なシステム、学術計算や最先端科学といったハイパフォーマンスコンピューティングの領域では依然としてメインフレームが利用されますが、一般企業の業務システムでメインフレームが利用される状況は既にありません。

 一方でアジア各国は、コンピュータを利用し始めた時期が比較的最近であり、オープンシステムによる構築ノウハウが先進国で充実してから広まってきたことで、メインフレームという文化を経験せずにITシステムを構築するようになりました。もちろん各国では欧米や日本のメインフレームで構築され、非常に安定したシステム基盤を参考にしますが、システムの設計はまずオープンシステムありきで始まるケースが大半です。

 これには、自国内にメインフレームを開発できる規模のコンピュータベンダーがいない、といった背景も少なからずありますが、それ以上にコスト的な制約が最大の課題です。

 コストを抑えるため、具体的には「壊れるものは壊れる」という前提で、業務への影響をゼロまたは極小化するようアプリケーション側で対策をとり、システム全体で最適化を図る方式が非常に盛んです。サーバやストレージの仮想化はこの目的にうまく合致したため、2000年代中旬から後半のたった数年で爆発的に広まりました。

 また、中国内陸部を除いて地震や津波といった広域災害が発生しやすい地域であることから、災害復旧(DR)についても非常に積極的な取り組みが進んでいます。ただ、基幹系のミッションクリティカルなシステムであっても遠隔地へのミラーや常時クラスタ化といったリアルタイムに、ダウンタイムをゼロにするというアプローチよりも、上述の「壊れるものは壊れる」という考えの上でリスクとコストを天秤にかけた方策を取り入れています。つまり、十数分から数時間のRTOで復旧する即時復旧、代替運用的なソリューションも積極的に検討される点も特徴です。地理的な要因から保守、修理網の整備が欧米や日本に比べて貧弱という背景もあり、壊れた状態でもしばらく運用できるような設計や、スペアパーツを保有して自社で交換するという運用も盛んです。

 特に為替や国力としては先進国と並ぶほど十分な中国でも、この考え方は比較的身近なものになっています。コスト競争力という点では米国の方策を参考にしつつ、標準化や仮想化といった技術の積極採用と数をそろえることでボリュームメリットを確保するなど、ITインフラを非常に速いスピードで更新しています。これには、非常に速いスピードで開発が行われているOpenStackの採用が進んでいることも一つの証左といえるでしょう。

 東南アジア諸国では為替や関税などの都合上、先進技術の採用がコスト的に厳しい場合でも、他国との競争を勝ち抜くためにリスクとコストを天秤にかけつつ導入を進めるという知恵で生き残りをかけています。この点は日本企業も参考にすべきでしょう。

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