こうした市場の流れを踏まえて、ゲルシンガー氏がVMwareの新たなクラウド事業戦略のキーワードとして挙げたのは、「Freedom」と「Control」だ。Freedomは「ユーザーの自由度」、Controlは「IT部門のコントロール性」を意味する。
同氏によると、ユーザーの自由度とは、ユーザーがパブリッククラウドとプライベートクラウドのリソースを自由に組み合わせて利用できるようにすることだ。すなわち、個々のユーザーニーズに応じたハイブリッドクラウドを構成できるという意味である。冒頭で紹介した同氏の言葉は、この説明のエッセンスともいえる。
一方、IT部門のコントロール性とは、ハイブリッドクラウドを自由に構成しながらも、利用環境全体をセキュアに管理していくことを指す。このユーザーの自由度とIT部門のコントロール性の両方をきちんと担保してこそ、ITをビジネスに役立てることができるというのが、VMwareの考え方だ。
この考え方は、同社がかねて提唱してきた「Software-Defined Data Center(SDDC)」と呼ぶ概念にも当てはまる。この概念は、仮想化されたコンピューティング、ネットワーク、ストレージ、そしてそれらを管理するソフトウェアを統合するという発想である。同社はこれまで、この概念に基づいてそれぞれのコンポーネントとなるソフトウェアを開発し、提供してきた。
そして、同社がこのほど満を持して投入したのが、SDDCを実現するためのプラットフォームとなる「VMware Cloud Foundation」である。これは、サーバを仮想化する「vSphere」、ストレージを仮想化する「Virtual SAN」、ネットワークを仮想化する「NSX」、そしてそれらを管理する「SDDC Manager」といったVMwareの主要ソフトウェアによって構成されている。つまりは、これによってどのデータセンターでもクラウドを容易に構築できるのである。
同社はこのVMware Cloud Foundationをプライベートクラウド向けに提供するとともに、パブリッククラウドサービスベンダーにも適用してもらうことで、ハイブリッドクラウドだけでなくマルチクラウドの世界も大きく広げようとしている。パブリッククラウドサービスで有力なAmazon Web Services(AWS)やIBMと相次いで提携したのは、そのためだ。この全体構想を、VMwareは「Cross-Cloud Architecture」と呼んでいる。
ゲルシンガー氏はこのCross-Cloud ArchitectureをVMwareの事業ビジョンである「Any Application」「Any Device」とともに「Any Cloud」を実現するものだと強調した。
クラクドについて同社は、2015年まで「One Cloud」を掲げていたが、それは一時期、パブリッククラウドサービスを大々的に展開し、AWSなどに対抗しようとしたからだ。
しかし今回、その戦略を転換し、自らはソフトウェアを提供する立場に徹して、クラウドサービスプロバイダーとのパートナーシップを一層強化することにした。これがVMwareの新たなクラウド事業戦略の核心である。
同社のこうした事業戦略が注目されるのは、とりわけvSphereで世界的に確固たる顧客基盤を持つからだ。従って、ハイブリッドクラウドに加えてマルチクラウドも視野に入れた同社の新戦略は、多くの企業においてクラウド利用の今後の方向性に影響を与えることになりそうだ。その影響の大きさによって新戦略の勝算も見えてくるだろう。
最後に筆者の印象を1つ。これまでVMwareが発信するメッセージは、エンジニアには通じてもビジネスユーザーにはなかなか伝わらなかったのではないか。だが、冒頭で紹介したゲルシンガー氏の今回のメッセージは非常に分かりやすいものだった。世の中に大きく広がるものは得てして分かりやすい。VMwareの“第2ステージ”が始まった印象である。
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