評価用のデータを提供してくれる団体が増え、ワークショップの開催規模も大きくなってきてはいるものの、そのうちに、AIが一過性のブームで終わってしまうのではないか、と東中さんは心配している。
「りんなやSiriといったシステムも出てきていますし、世間の人は割と『人工知能との対話はできる』と感じている面はあると思います。それもあって、今は投資対象として対話研究に注目が集まるチャンスだと考えています。しかし、これもいつまで続くかは分かりません。数年でいいものができなかったら、研究が打ち切られる可能性もあるのです。お金がついているうちに不安なポイントをなくし、使えるものにして定着させる。これが目標です」(東中さん)
さまざまなシステムが出てきていることもあり、雑談システムに対する一般消費者の“期待値”は高い。それを象徴するようなエピソードがある。先に紹介したシステムと人間の会話データにおける評価について、研究者が評価した場合とクラウドソーシングなどを使って一般の人に評価してもらった場合とで、結果に大きな差があった。一般の人が評価した場合、研究者の評価に比べて○の数が6割程度まで減ってしまったのだという。
「研究者が『これは頑張っているな』と思っても、一般の人は『もっとできるでしょ』と思って△や×をつけてしまう。人工知能との対話は難しい、ということを多くの人に分かってもらえればハードルが下がるように思うんです。最近スマートフォンなどで実現されるようになってきた音声対話ですが、これはとても有用なメディアです。タイピングに比べて場所を選ばないし、伝達効率もとてもいい。その価値を最大限発揮するためにも、お互いに今の限界をしっかりと理解してもらうのが大事かなと。こうしたデータを見ると思うんです」(東中さん)
「人工知能との雑談対話の研究は、もう苦労の連続です」――東中さんはこう話す。人間がこれだけたやすくやっている雑談をなぜコンピュータはできないのか。Googleが開発したAlphaGoなど、人間を超える知能を持つ可能性を見せられ、人工知能への期待は膨らむばかりだが、その一方でその限界を知り、その限界を超えようとさまざまな研究を行っている人たちもいる。
人工知能が人間の思考を理解する形で進化してきたように、人間も人工知能のことを理解していく。こうしたお互いの“歩み寄り”こそが、AIによる「おもてなし」の秘訣であり、ひいては人とAIの「共存」へとつながっていくのかもしれない。
1999年に慶應義塾大学環境情報学部卒業後、2001年に同大学大学院政策・メディア研究科修士課程、そして2008年に博士課程を修了。博士(学術)。
2001年に日本電信電話株式会社に入社。現在はNTTメディアインテリジェンス研究所に所属し、「しゃべってコンシェル」の質問応答機能の研究開発や、「ロボットは東大に入れるか」プロジェクトにおける英語科目を担当。人工知能学会理事・編集委員を務める。平成28年度 科学技術分野の文部科学大臣表彰を受賞。
記事中に出てきた「対話破綻検出チャレンジ」の詳細は以下のリンクから。システム開発・評価用のデータも公開している。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.