ITの“一昔”は1年前、“二昔前”は3年前と心得よITソリューション塾(1/2 ページ)

新しい技術が次々と登場し、複雑に影響を及ぼし合いながら、生物のように多種多様に進化するIT。その最新トレンドを理解し、ITビジネスの未来を考え、若い世代に伝えていくために必要なこととは?

» 2017年05月12日 09時00分 公開

多様さと複雑さこそテクノロジーのトレンドの姿

 グーグルの経済学者ハル・バリアンの計算によると、ここ数十年というもの世界全体の情報は、毎年66パーセントの割合で増えている。この爆発的な数字を最も一般的な素材、例えばコンクリートや紙のここ数十年の増加率である毎年平均7パーセントという数字と比べてみればいい。この星のどんな他の製品と比べても10倍速い成長率は、どんな生物的な成長よりも大きなものだ。(『テクニウム』p.384)

 テクノロジーは生物界と同様に、自らが自律的に進化すると説く本書は、テクノロジーの業界に身を置く私にとって実感として受け止めています。そんな時代だからこそ、この膨大な情報にどのような脈絡があるのかを、私たちは自ら探し求めていかなければなりません。

Photo

 私は、「IT」という言葉がなく「コンピュータ」だったころからこの業界に身を置き、2017年で35年がたちました。その間のテクノロジーの変遷は、日常の一部でした。

 22年前、IBMを卒業したころ、この業界は、ダウンサイジングとクライアントサーバという大きなパラダイムシフトに直面していました。また、「Windows 95」登場の年でもあり、インターネットという言葉がとても新鮮な響きを放っていました。「○×株式会社がホームページを作りました」という記事が日経新聞に掲載される時代でもあったのです。

 私がIBMで営業として働いていたころは、IBMのメインフレームがITをけん引し、その周辺に新しいテクノロジーが登場するといった時代でしたから、それを追いかけてさえいれば、テクノロジーの大枠を押さえることができたのです。

 しかし、時代は大きく変わりました。インターネット、クラウド、モバイル、ソーシャル、ビッグデータ、IoT、人工知能など、新しい言葉が次々と登場し、それらが複雑に影響を及ぼし、折り重なりながらテクノロジーのトレンドを作り上げています。かつてのような「メインフレームからミニコンやオフコン、PCへのダウンサイジング」、あるいは「集中処理から分散処理やクライアントサーバへの処理形態の変化」といった、単純さはありません。この多様さと複雑さこそが、今のテクノロジートレンドの姿であり、ITビジネスの未来を考えることを難しくしています。

 だからといって、この現実に向き合うことを諦めてしまっては、この業界で役割を果たすことはできません。そんな思いから始めたのが、ITソリューション塾でした。

 2009年から、IT企業やユーザー企業の情報システム部門の皆さんを対象に行っているこの研修は、毎週水曜日の夜、3カ月で1期という単位で開催しています。

  • 「ITに関わる仕事をしているにもかかわらずITを体系的に理解できていない」
  • 「自社製品のことは分かっているがITの世の中の動きについては分からない」
  • 「自社の扱う製品の機能や性能なら説明はできるが、お客さまの価値は語れない」

 このような人が多いという現実に直面し、危機感を抱いたことも1つの理由でした。これでは、IT活用の健全な発展は望めません。ただ、この背景には、テクノロジーが、多様で複雑になったことがあります。

 もちろん、テクノロジーやそのトレンドを学ぶ方法はいくらでもあります。しかし、それには覚悟と自助努力が必要です。そのきっかけを提供し、テクノロジーを学ぶインデックスとリンクを提供しようと始めたのが、このITソリューション塾でした。

 新しいキーワードを追いかけ、言葉を覚えても、テクノロジーの全体構造や脈絡は分かりません。それが生まれた歴史的背景やビジネス価値を踏まえて、俯瞰(ふかん)的かつ体系的にトレンドの構造を理解することが大切です。そんなことをモットーにやってきた塾なのです。

Photo

 もちろん座学で学んだだけでは、知識は定着しません。自らの言葉で他人に説明してはじめて、知識は自分のものになります。そこで、講義に使った図表全てのパワーポイントのソフトコピーをロイヤリティフリーで受講者に提供しています。受講者にこの図表を、お客さまへの提案や研修、社内での勉強会などで活用してもらいたいからです。

 そんなことを8年もやってきました。現在、ITソリューション塾は、第24期を迎え、60人が学んでいます。そして、そのおよそ1/3が自費でのご参加です。

 あらためて、そういう時代なのだと思います。会社が与えてくれるものだけに頼っていては生き残れません。なぜなら、会社自体が時代の変化に翻弄(ほんろう)されているからです。このような時代にどうやって生き残るかの答えは、自分で見つけるしかないのです。

       1|2 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ