記憶に新しいのが、「Windows 8」の登場です。タッチパネルに最適化したMetroインタフェース(Metro UI)を全面的に採用し、旧メニューも残したものの、「スタート」メニューがなくなったために大騒ぎになりました。これも、残しとておけばいいのに、なぜわざわざなくしたのか? 本当に理解不能です。結局、後で「しぶしぶ」という感じで復活させ、Windows 10では完全に元に戻りましたが。
実は、OfficeのリボンとWindows 8の開発責任者は同じ人なのです。スティーブン・シノフスキー氏で、「末はMicrosoftのCEOか」といわれていた人なのですが、Windows 8リリースの直後に退社したのです。
退社の本当の理由は分かりませんが、私としては、スタートメニューについてはプレビュー版の時点から大騒ぎになっていたにもかかわらず、そのままリリースを敢行したことも要因の1つなのではないかと、勘繰っています。
彼はかなり変わり者だったことは確かなようです。故スティーブ・ジョブズ氏にたとえられることもあったくらいですから(今ならジェフ・ベゾス氏にたとえられるのでしょうね)。こういう人は、やはり信念があるんでしょうから、「最初は多少不評かもしれないが、未来の使い勝手を考えると、今この変更を行っておくべきだ」くらいの思いでいたのかもしれません。Officeのリボンも、大多数の人は結局は受け入れざるを得なかったわけですから(私は、いまだに使いやすいとは思えませんが)。
しかし、シノフスキー氏がいなくなっても(いるときも、Microsoftに来る前も)、Microsoftはちょこちょことした変更を繰り返しているわけですから、これはもう「MicrosoftのDNA」として、UI/UXに対する考え方が全く違うのだと考えざるを得ません。そのあたりの感度の悪さやセンスのなさが、スマートフォンでWindowsがいまだに受け入れられない要因なのではないか、とさえ思います。企業ユーザーは多少の不便さは我慢しますが、個人が自腹を切る場合には大事なところですから。
対称的なのが、Appleです。「Mac OS」のメニューは、「OS X」になった2001年以降、変わっていません。そもそも、「Appleマーク」の隣に「Finder」があって、「ファイル」「編集」と続くメニューの並びや構成は、以前のMac OSから変わっていないのではないでしょうか。うろ覚えのところもあるので、絶対とはいえませんが。多少違うとしても、それに気付かないということは、上手に変えているのでしょう。
アイコンが立体的になったり、ランチャーが追加されたりして、見た目はけっこう変わっていますが、使い方で迷うことはありませんし、UI/UX的には本当に同じです。絶対に変えないし、変えるとしても慎重過ぎるくらい慎重に変えています。これは、哲学といっていいし、信念なのでしょう。私は、この姿勢を高く評価します。「iPhone」にしても、初代と今とで、UIはほとんど同じです。アイコンがフラットになりましたが、使う分には「そうだっけ?」くらいの違いでしかありません。
ただ、公平を期していうと、MacはUIは変えませんが、付属ソフトやツールはけっこうなくなったり変わったりしています(代替ソフトがある場合が多いですが)。
Microsoftは、UIから見えなくなるけど、探すとちゃんと残っていることが多いように思います。ソフトそのものにはこだわりがあるのでしょうか。最近は「Paint」がなくなると騒がれましたが、結局なくなりはしないようです。「Mac Paint」なんかもう、跡形もないですけどね。
「テレビのリモコンにある数字の配列が、メーカーごとに、あるいは発売のタイミングごとに違っていたら、怒るでしょ?」――。これは、私がよく使う、UIについてのたとえ話です。新しい機能が追加されたりすると、リモコンのボタンが増えたりして、それをどう収めるかが腕の見せどころなわけですが、Microsoftがやっているのは、変えなくてもよい(変えてはいけない)数字の配列をちびちび変えているようなものだと思うのです。皆さんはどう思いますか?
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