敵は社内にあり! 抵抗勢力との向き合い方 「選べないメンバーで最強チームを作るには」榊巻亮の『ブレイクスルー備忘録』(2/2 ページ)

» 2017年08月17日 07時00分 公開
[榊巻亮ITmedia]
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2. ゴールコンセプトを考える集中討議

 チームを1つにするには、「集中討議」というやり方もお勧めだ。

 集中討議とは、要するに合宿のこと。泊まるのが理想だが、1日缶詰で討議するのでもいい。本音で議論し、「このプロジェクトで本当に目指すべきゴールは何か?」「どんなコンセプトを大事にするのか?」を徹底的に話し合う。議論自体は2日程度の短い期間だが、これがあるのとないのでは、天と地ほどの開きが出る。

 私たちが集中討議をリードするときは、大きく次の2つのパターンに分類される。

パターン1:「課題ぶちまけ型」の集中討議

 プロジェクトとしてやりたいことが全く定まっていないケースや、メンバー間の立ち位置がバラバラで課題認識が大きくズレているケースなどは、まずメンバーが課題をぶちまけるように仕向けることが多い。1つ事例を紹介しよう。

 ある精密機器メーカーの全社改革プロジェクトは、さまざまな部署から均等にメンバーを出してもらってプロジェクトを進めていた。ただ、このメーカーは数社が合併してできた会社だったことから、20人近いメンバーは他の部署の業務や問題をほとんど知らなかった。

 同じ部署の20人でもバラバラなことを言い出すのが常なのに、このときは、全く違う部署からの20人。しかも、自分のやってきたことに自負のある偉い人たちばかりだ。

 全社プロジェクトに関わったことのある方はイメージできると思うが、この状態でチームを1つにして、方向性をそろえるのは至難の技である。

 このときは、2日間かけて集中討議を実施した。20人のメンバーを2つのグループに分けて、半日かけて課題のブレインストーミングをしたのだ。付箋に課題を書き出しては、発表して壁に貼っていく、

  • 「ウチの部署でも、まったく同じ課題があるよ」
  • 「そんなことに困っていたのか?」
  • 「だいぶひどい状況になっているんだな……」
  • 「それは、少し見方が偏っていると思うなぁ、ウチの部署からみるとむしろ逆で……」

などというやりとりが自然と出てくる。互いの所属部署の事情や、どんなことを考えているのかを知らないのだから当然だ。この作業が、互いを理解し、立場を理解し、困っていることを理解することにつながる。

 議論されていることが事実なのかはよく分からない。裏付けデータがあるわけではないが、むしろそれでいい。メンバーが今、この瞬間に感じている課題がぶちまけられることに価値がある。

 このときは、そうやって出た課題を2チーム間で共有し、壁一面にマッピングした。写真のように、まさに“壁一面の”課題群となった。

Photo

 この後さらに、各自が「解決すべき重要な課題だ!」と思うものにシールを貼り、なぜその課題を選んだのかを話してもらった。ここまでやると、見解の違いが明確になってくる。

 当然、1つの統一見解にたどり着くわけではない。それでも、考えていることがそろってくるのだ。実際、3つほどの大きな課題がピックアップされ、その後のプロジェクトの柱となっていった。

 このとき、集中討議後の参加者のコメントを紹介すると……

「それぞれの部署はミッションが全く違うが、互いに悩んでいること、困っていることがよく見えた」

「これまでコミュニケーションは多くなかったが、思った以上に同じ課題で困っていることが分かった」

「合宿を2日間やると聞いたときは「無理だ」と思ったが、今は、本当にやってよかったと思う」

 20人のバラバラだったチームは、こうして見事にまとまっていったのだ。


パターン2:「そもそも論討型」の集中討議

 一方、やりたいことや検討のテーマがだいたい見えてきている場合、そのテーマに沿った“そもそも論”を戦わせるがお勧めだ。

  • 「グローバル対応は何ができればよしとするのか」
  • 「真の顧客は誰なのか」
  • 「事業の柔軟性とは何か」

 これらは皆、いろいろな変革を始めたときに議論した“そもそも論”だ。このレベルの抽象的な話は、プロジェクトが進展するとなかなか議論している余裕はない。どれだけ議論しても、具体的な解決策にたどり着けないからだ。

 しかし、何も決まっていないプロジェクトの初期段階でこういう話をしていると、互いが大事にしている価値観が理解できたり、目指すべき方向や制約が整理できたりしてくる。

 これが変革のゴールやコンセプトの芽になる。“そもそも論”に戻るのは、一見遠回りに見えるが、いつかは通らなければならない道なのだ。

ゴールと主要成功要因を設定する

 どちらのパターンでも、集中討議の最後には、ゴールについて話し合う。

 近年、ゴールが全くないプロジェクトは少なくなったが、「取りあえずゴールはつくったけど、つくったっきり全然使ってません」というひどい扱いを受けているプロジェクトゴールはまだまだ多い。

 ゴールをつくるのは、チームの価値基準を一致させるためだ。悩んだときのよりどころとするために、ゴールはある。

 ところが、ゴールだけだと、どうも抽象度が高い表現になりがちだ。

  • 「201X年までに新基幹システムをリリースする」
  • 「事務業務生産性を30%向上させる」
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といったゴールは分かりやすく、明確なゴールだが、価値判断のよりどころとするには、ちょっと弱い。

 これを補完するため、ケンブリッジでは、ゴールとセットで「主要成功要因」を設定している。

 主要成功要因とは、ゴールを達成する上で絶対に外せない要素のことである。言い換えると、主要成功要因が実現できなければ、ゴールを達成したといえないものだ。

 主要成功要因は、3〜5つ程度に絞って設定するのがいい。

 先ほどの精密機器メーカーの事例に戻ろう。このときは、集中討議を通して、「いくら基幹システムができても、データがぶつ切れのままだったら何の意味もない」「顧客ニーズに答えられなくなってしまっては、元も子もない。ニーズに柔軟に応えるのは当社の大事な差別化要素だ」といった議論を重ね、大事にすべきことを主要成功要因に落としていった。

 そして作られたのが、こんなゴールと主要成功要因だ。

ゴール: 「201X年までに新基幹システムをリリースする」

主要成功要因:

  • 上流から下流までデータが一気通貫で流れること
  • 2重入力転記作業が撤廃されていること
  • 顧客ニーズに対応できる自由度があること

 重要なのは、主要成功要因がゴールより一段、具体的な状態で書かれていること。これをつくるのは価値観を合わせる作業に等しい。時間もかかるし、難しい作業であるが、一体感のあるチームを作るためには、絶対に必要なことである。手を抜かずに、しっかり議論しよう。

まとめ

 チームの立ち上げ期には、腹を割って話す時間が必要だ。今回紹介したノーミングセッションも、集中討議による議論も、主要成功要因作りも、全て互いに腹を割って議論するための工夫でもある。

 「ただでさえ忙しいのに。そんなことを悠長にやっている時間はない」と思う人もいるだろう。だが、意思決定や合意形成が難しいプロジェクトであればあるほど、最初に時間をかけてチームを1つにしたいところだ。後に内部から抵抗が生まれて、空中分解してしまうのを避けるためにも。

著者プロフィール:榊巻亮

book 『抵抗勢力との向き合い方』

コンサルティング会社、ケンブリッジのコンサルタント。一級建築士。ファシリテーションとITを武器に変革プロジェクトを支援しています。

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