IoTは何を壊し、何を創造するのか 2つの大きなパラダイムシフトを読み解くデジタル改革塾(3/3 ページ)

» 2017年09月13日 10時00分 公開
[タンクフルITmedia]
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「モノのサービス化」でビジネスは大転換期に

 サイバーフィジカルシステムによって生まれる変化は、前述の通りデジタルコピーやデジタルツインの登場による変化だが、“モノのサービス化”では、どのような変化が起こるのか。斎藤氏はこれを、「デジタルカメラでプロのような写真を撮る」ことを例に挙げて説明した。

Photo IoTの進展で「サイバーフィジカルシステム社会の実現」と「モノのサービス化」というパラダイムシフトが起こる

 例えば、ある人がデジタルカメラで、プロのカメラマンが撮影したような「夕日を背景にした美しい富士山の写真」を撮影したいと考えたとする。その時、ネット上に、プロのカメラマンが撮影した素晴らしい富士山のシルエット写真のパラメータ設定が非常に細かく説明してあり、しかも、ダウンロードボタンがある。そのボタンを押せば、複雑な設定情報が自分のカメラにダウンロードできるとしたらどうだろう。「プロのような写真が撮れるはず」だ。

 つまり、「こうしたサービスが魅力的だからそのカメラを買う、という人たちも増えてくるだろう。モノの価値が、モノそのものの価値だけではなく、サービスへとシフトしていく。これも、IoTがもたらすパラダイムシフトだ」(斎藤氏)。

 これはデジタルカメラだけではなく、自動車、航空機、その他の機械も同じように捉えることができる。「昔は、モノを買ったら『それで終わり』だった。しかし、これからのモノはネットにつながり、買った後もソフトウェアのアップデートによって機能はどんどん進化していく。すると、“こんなサービスがあるからこの商品を買おう”ということになっていく」(斎藤氏)のだ。

 さらにIoTが活用され、センサーでモノの状態が常に分かるようになると、「故障の可能性あり」「そろそろ部品の交換時期」といった予兆の把握も可能になり、故障する前の修理が可能になる。それだけではなく、“モノの使われ方”の情報を次の製品開発に生かすこともできるようになるだろう。

 こうした“モノのサービス化”という考え方を、ビジネスに生かしていこうという流れは既に始まっている。例えば、仏大手タイヤメーカーのミシュランは、タイヤにセンサーを付けて走行した距離をリアルタイムに把握し、距離に応じて使用料金を課金する「Pay by Mile」というサービスを始めた。「タイヤというモノを販売するのではなく、サービスを提供することで収益を上げる。ビジネスモデルの転換だ」(斎藤氏)。

 しかも運送業者などでは、「『使った分だけ支払う』ということで経費として処理できるようになる。固定費ではなく変動費として扱えるようになれば、経営に与えるインパクトも抑えられる」(斎藤氏)というメリットもある。

 「センシングでタイヤの交換時期が分かれば安全性も向上し、ドライバーの運転特性などの情報をもとに、安全で効率的な運送を実現するコンサルティングもできるだろう。タイヤは成熟した産業なので、単体で差別化するのは非常に難しい。そういう中でサービスという形で付加価値を付けることで競争優位を実現できる」(斎藤氏)

IoTのビジネス活用を考える前に「事業課題の明確化」を

 「モノのサービス化」というパラダイムシフトは、競合との差別化に頭を悩ませている多くの企業にとって重要な意味を持つ。しかし、それを自社のビジネスにどう取り込み、活用していくかを考えるのは案外、難しい。

 斎藤氏はこの課題について、「モノのサービス化の話をすると、多くの会社から『うちもIoTを活用したい。どんなサービスを使ったらいいか、どの機器を使ったらいいか』とよく聞かれる。これはナンセンス。大切なことは、まず、自社の事業課題やビジネス課題がどこにあるかを明確にすること」と指摘する。

 大切なのは、“IoTに取り組むか、取り組まないか”ではなく、“事業上の課題が解決されるかどうか”のはずだ。その課題が明確になっているかどうか。「技術の進化で、これまでは“できない”と諦めていたこともできるようになる。その意味でも、これまで諦めていたことは何だったのかを含め、改めて事業課題を明確すべきだろう」(斎藤氏)

 もちろん、「こんな技術があるならできるかもしれない」という発想から事業課題を提起していくやり方もある。いずれにせよ、何を解決したいのかという“課題ありき”で考え始めることが重要だ。斎藤氏は、「これが新製品だ、新技術だとベンダーやメーカーは売り込みに来るが、それを真に受ける前に自分たちが抱えているビジネス課題は何かをきちんと明確にする。そこから発想をしていかないといけない」(斎藤氏)と強調して講演を締めくくった。

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