人工知能(AI)やロボットの役割について、「道具と人間」という歴史的な関係の延長線上で考えてみしょう。
カップめんを待つ間に、電車の待ち時間に、歯磨きしている間に“いまさら聞けない”ITトレンドが分かっちゃう! いまさら聞けないITの最新トレンドやビジネス戦略を、体系的に整理して分かりやすく解説する連載です。「この用語、案外、分かっているようで分かっていないかも」「IT用語を現場の社員にもっと分かりやすく説明できるようになりたい」――。情シスの皆さんのこんな課題を解決します。
「人工知能(AI)やロボットが人間の仕事を奪ってしまうのではないか」という懸念が広がっています。
しかし、かつて道具を手にした人間は、その道具を自ら進化させ、人手に頼るしかなかったさまざまな労働から人間を解放し、人間の仕事を奪い続けてきたともいえるでしょう。そして同時に、人間に新たな機会や役割を与え、それ以前にはなかった新たな社会的価値を生み出してきたのです。
それは、次のような例からも分かります。
AIやロボットもまた、そんな道具の進化と人間との関係の延長線上に捉えることができます。むしろ社会課題を解決する手段と捉え、その積極的な活用を促していくことこそ、健全な使い方であるといえるでしょう。
例えば、我が国が抱える社会課題を考えれば、「少子高齢化」「低い労働生産性」「グローバル競争の激化」が挙げられます。
我が国の人口は、2010年の1億2086万人をピークに、2030年の1億1662万人を経て、2048年には1億人を割って9913万人となり、2060年(平成72年)には8674万人になるものと見込まれています。
また、生産年齢人口(15〜64歳の人口)は2010年の63.8%から減少を続け、2017年には60%台を割った後、2060年年には50.9%になるとなるのに対し、高齢人口(65歳以上の人口)は、2010年の2948万人から、2042年に3878万人とピークを迎え、その後は一貫して減少に転じ、2060年には3464万人となります。
そのため、高齢化率(高齢人口の総人口に対する割合)は2010年の23.0%から、2013年には25.1%で4人に1人を上回り、50年後の2060年には39.9%、すなわち2.5人に1人が65歳以上となることが見込まれているのです。このような働き手の減少は経済や福利厚生の維持を困難にします。
日本生産性本部は、主要先進35カ国で構成されるOECD加盟諸国の「2015年の就業者数(または就業者数×労働時間)1人あたりのGDP」(通称:国民経済生産性)を「労働生産性」と定義し、諸外国と比較した結果を発表しています。
これによると、米国は121,187ドルで3位、フランスは100,202ドルで7位、イタリア97,516ドルで10位、ドイツは95,921ドルで12位、カナダ88,518ドルで17位、英国は86,490ドルで18位、日本は74,315ドルで22位となり、日本はG7中最下位になります。
働き手が減少するにもかかわらず、労働生産性が低いままでは、日本の社会基盤が維持できません。改善すべき余地は大いにあるでしょう。
新興国の急速な発展や最先端のテクノロジーを生かしたものづくり革命により、かつてないグローバルな競争環境にさらされています。
また、かつて言われた六重苦(円高、重い法人税・社会保険料負担、経済連携協定の遅れ、柔軟性に欠ける労働市場、不合理な環境規制、電力供給不足・コスト高)は解消されつつあるとはいえ、まだ多くの課題を抱えています。このような状況で国際的な競争力を確立していかなければなりません。
AIやロボットの活用は、このような社会課題の解決にとって、有効な手段になり得ると期待されているのです。
AIやロボットの活用だけで、我が国が抱える社会課題の全てを解決できるわけではありませんが、大きな助けになることは間違えありません。
人間の仕事を奪う「脅威」と捉えるのではなく、社会課題を解決するための「手段」として捉え、人間の働き方や役割を積極的に変えていくことで、その価値を引き出していくことが必要なのです。
日本IBMで営業として大手電気・電子製造業の顧客を担当。1995年に日本IBMを退職し、次代のITビジネス開発と人材育成を支援するネットコマースを設立。代表取締役に就任し、現在に至る。詳しいプロフィールはこちら。最新テクノロジーやビジネスの動向をまとめたプレゼンテーションデータをロイヤルティーフリーで提供する「ITビジネス・プレゼンテーション・ライブラリー/LiBRA」はこちら。
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