2006年に15人でスタートしたチームだったが、部署名の変更などを経て、現在では約2倍の約30人にまで増えている。増員したメンバーは社内ではなく、他社、しかも他業種の人だという。その理由は、分析領域の拡大と高度化にある。
「新しいモデリングをするならば統計解析に長けた人が必要ですし、Webページのアクセス履歴やSNS、アプリの利用履歴などを基にしたレコメンデーションをするならば、そういうバックグラウンドを持った専門家が必要になります。会社にとって未知の領域へのチャレンジなので、社内に適した人材は見つけづらいですよね。
メールの文面やHTMLといった、コンテンツまでを含めて高速でPDCAを回すならば、できるだけ内製できた方が有利なので、いろんなスキルを持っている方に来ていただいて、みんなで議論しながら作っていくことを目指しています」(吉澤さん)
知りたいことが増え、扱いたいデータも増え続ける。非定型データなど、データの種類も増え、そのたびに新たな仮説もできる。「顧客を知る」という取り組みには終わりがない。新しい知識を学び、試し続けるのははっきり言って大変なことだろう。それでも長年、この取り組みを続ける彼女を動かすのは、強い“好奇心”だ。もともと、吉澤さんはシステムやプログラミングが大の苦手だったという。
「私は理系ですけれど、システムが嫌いなので文系である銀行に就職しました。最初は、預金の商品開発部門に配属になって、数字を本格的に扱っていたわけではないのですが、扱う数字を見るうちに、『なぜこうなるのか』と疑問が沸いてきました。理由を知るためには技術が必要ですし、部署をまたぐ話ならば社内のネットワークも広がっていきます。それでIT部門の方々とも仲良くなりました。私たちが見る数字の裏に、どんな事実があるのか。それを追求する、そんな地味なことの積み重ねだと思います」(吉澤さん)
さまざまな専門性を持つ人材が増え、みずほ銀行と異なる文化や背景が混ざり合うチームをけん引する立場になった吉澤さんは、データをビジネスに生かすことの難しさを今、あらためて感じているそうだ。銀行というビジネスを真に理解できないと、ビジネスに寄与するデータ分析はできないと吉澤さんは話す。
「銀行はどこまで行ってもサービス業です。いくら高度な分析やマーケティングができても、技術そのものに依存してしまうと効果が出ない施策になってしまいます。技術を使うことが目的ではなく、あくまでお客さまのために何ができるか。人によって、目指すべきビジョンがすれ違うケースがあるのが、とても難しいところだと思います。その溝を埋めるには、やはり地道に、出てきた成果に対して問い続けるしかない。
数字というのは『数字』なのではなく、あくまでお客さまが行動した結果。数字そのものがお客さまからのメッセージだと言えます。数字を数字として捉えてしまう限り、ビジネスに寄与するデータ分析はできないでしょう。これは私見ですが、営業経験のある人はその視点を得やすい傾向にあると思います。反対に技術系の専門家は、その視点を得るために少し時間がかかる人が多いのかなと」(吉澤さん)
ユーザー部門にいながら、数字に興味を持ち、体当たりでITの素養を学んで、データ分析の新たな施策を切り開き続ける吉澤さん。複数の視点を得て、さまざまなバックグラウンドを持った組織を作ることで、データとビジネスをつなぐ橋渡しができるようになる――吉澤さん、そしてみずほ銀行の事例は、その好例といえるだろう。
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