「エセ棚卸し」にだまされるな Notes移行がうまくいかない理由：ナレッジ!? 情報共有…永遠の課題への挑戦

Notesからほかのグループウェアに移行する際に必ず出てくるのが「まずは棚卸しからです」というひとこと。でも、その棚卸し、本当に役に立ちましたか？

[吉川日出行，ITmedia]

この記事は吉川日出行氏のブログ「ナレッジ!?　情報共有…永遠の課題への挑戦」より転載、編集しています。

　グループウェア業界でIBMのNotesが草刈り場になっているようだ。さすがに取り残されたユーザーの我慢も限界にきたというところだろうか。

　かつて、Notesの導入企業としてメディアに取り上げられた大企業も、こぞって他のグループウェアへ切り替えつつある。大物では残るは数社というところか。ただ、中堅企業ではまだ、Notesの廃止に踏み切れない企業も多いとも聞く。

　Notesから他のグループウェアへ移行する際のポイントといえば、「既存資産の移行をどうするか」に尽きる。グループウェアの基本機能を再現するだけなら、新しいグループウェアへ切り替えても問題はない。しかしながら、Notesの上で共有している企業のノウハウや業務上のナレッジを移すとなると話は違ってくる。

　蓄積された既存資産にあわせて「移行の是非」「移行先」「移行方法」「移行時期」などを1つひとつ見ていくことが必要だ。これがNotesデータベースの棚卸し作業になる。グループウェアベンダー各社も、ノーツマイグレーションを行うSIerも、皆、口をそろえて「Notesデータベースの棚卸し作業が重要だ」と言う。「まずは棚卸しからです」と最初に言うのだ。

　それなのに、具体的な棚卸しの際の手法を確立しているSIerは皆無に近い。「棚卸し」と称して作成したExcelの一覧表を顧客につきつけて、「さあ、ここから移行するデータベースを選んでください」というだけのエンジニア、「ツールによるNotesデータベースの解析結果」がウリだと言うので結果を見てみたら、単に設計要素の数をExcelの表にして数が多い順にグループ化しただけのものを見せ、グループごとの移行工数を掛け算した見積を出す営業――。ノーツマイグレーション市場では、こういう人にばかり会う。

　そんな安易な棚卸しでは、経営者もユーザーも納得しない。かくしてノーツマイグレーションプロジェクトは迷走する。

　SIerは、長年に渡って蓄積された情報資産に対して、きちんと棚卸しの考え方を整理して提示すべきだ。例えば、われわれが棚卸しをする場合、再利用できるものは何か、一から共有し直したほうが良い情報はどんなものかを見極め、ためるものと周知するものはストックとフローとして分類する。

　蓄積するものは、「FIXされた結果なのか」「検討経緯や過程こそが重要なのか」といった情報の性格によって適するプラットフォームが異なる。更新頻度は多いのか少ないのか、更新者は単独か複数か、それによっても共有形態は変わってくる。フローコンテンツにしても、展示することが目的なのか、回覧・周知することが目的なのかによって適したソリューションは異なり、回覧・周知が目的の場合はグループウェア以外のツールに適したものがある。

　安易にベンダーやSIerの営業の口車に乗ってムダな「エセ棚卸し」で迷走しないようご注意を。

著者プロフィール：吉川日出行

みずほ情報総研勤務。情報共有や情報活用を主テーマにコンサルティングや新ビジネスモデルの開発に携わっている。詳しいプロフィールはこちら。