人々がAIの進化に恐れを抱くのは、AI関連企業がその未来や可能性についてのアピールを急ぎ過ぎたことが原因かもしれません。
この記事は大越章司氏のブログ「Mostly Harmless」より転載、編集しています。
10月14日の日経電子版に、こんな記事が載っていました。
以下に一部引用します。
米グーグルは雇用創出を促進する世界のNPOなどに今後5年間で10億ドル(約1100億円)を提供する。米国では職業教育や起業支援の無料訓練プログラムを創設する。人工知能(AI)の普及により仕事の内容が激変し失職者が増えるとの懸念が高まる中、大規模な雇用支援に乗り出すことで批判をかわす狙いがあるとみられる。
人々がAIの進化に対して恐れを抱きはじめているということでしょう。ガートナーの記事のように、AIには多くの誤解があるという論調もありますが、一定の職業がAIなりロボットなりに置き換わっていくのは仕方がないことだとは思います。
これまで新しい技術が生まれるたびに多かれ少なかれ産業構造に影響がおよび、それによってなくなった職業も少なくありません。今回はそれが広範囲かつ急激に起こることが懸念される上、どの職業がなくなるのかがいまひとつ分からない、ということも人々を不安に陥れている原因かと思います。
そもそもGoogleは、AIの未来や可能性について宣伝しすぎなのではないかと思っていました。ラリー・ペイジCEOがこんなことを言っていますし……。
シンギュラリティを説いたカーツ・ワイルも今はGoogleの人ですし、2017年に囲碁の世界チャンピオンを倒して話題になった「Deep Mind」もGoogle傘下の企業です。
Googleは、AIの可能性を信じ、莫大な投資を行い、その未来を世界の人々と共有しようとし、GoogleがAI時代をけん引する企業であることを印象づけようとしたのでしょう。
しかし、人々は逆に不安を感じ、警戒するようになってしまったわけです。Googleは、急ぎすぎたのかもしれないし、成果を隠さず公表しすぎたのかもしれません。速すぎる変化に人間はついていけないものです。それに気づいたGoogleは、AIが暴走しないようにする安全装置を検討したり、
冒頭に挙げた雇用支援のような対策を打ったりして、何とかAIへの反感を和らげようとしているようです。
その点、IBMはちょっと違います。
Googleよりも古い企業で、人工知能についての研究も古くから行っており、「Watson」などのサービスもいちはやく市場に投入していますが、AIや人工知能という言葉をなるべく使わないようにしているように見えます。よく使われるのは、「コグニティブ」や「オートノミー」などです。これには、技術で先行していることだけをアピールしても、一般の人々からそっぽを向かれたらビジネスになりえないということを知り尽くしていたからではないかと思うのです。IBMの老練さゆえといえるかもしれません。
ちなみに、Microsoftも、この点ではIBMっぽく抑制気味だと思います。
人々がAIに不安を感じるのは、「よく分からない」からではないでしょうか。中で何をしているのかがよく分からないから、何ができて何ができないのかがよく分からず、どの仕事が置き換えられてしまうのかもよく分からない――ということなのではないでしょうか。
現代文明を知らない人がいきなり飛行機を見たら、魔法か黒魔術かのように思い、怖がるかもしれません。しかし私たちは、飛行機は物理法則にのっとって空を飛んでいることを理解しています。なぜ飛べるのかについての理論を詳細に語ることはできなくても、科学に立脚していることは信じており、必要以上に恐れることはありません。
AIも、仕組みを知れば、現時点では決して人間の仕事を置き換えるほどのものではないことが分かるでしょう。
ただ問題は、現在、ニューラルネットワークを学ぼうとすると、どこかで必ずΣ(シグマ)などの数式が出てきてしまうことです。これが出た瞬間に「だめだ」という人も多いのではないでしょうか。難しい数式なしに説明できればいいのですが、なかなか難しいところです。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.