Watsonが早い段階から応用されてきた分野のひとつに医療がある。種類が200以上もあり、米国だけで年間50万人が命を落とす癌(がん)だが、次々と新たな治療法が生まれており、最新の治療法が見つかれば救える命も多いという。
世界有数のがんセンターのひとつ、ニューヨークのMemorial Sloan Kettering Cancer Centerで社長兼CEOを務めるクレイグ・トンプソン氏は、「当がんセンターでは、病院と研究機関のコラボレーションによって、日々、がんの種類ごとに患者に効果的な最新の治療が行われており、Watsonも知識を深めている。しかし、住んでいる場所によってがん患者に格差があってはいけない。Watsonを活用すれば、当がんセンター以外の患者にもセカンドオピニオンを提供できる」と話す。
企業におけるAIの活用を考えたとき、より少ないデータでモデルをトレーニングできる方がいい。それだけ早く賢くなり、簡単に使い始められるからだ。
WatsonのチーフアーキテクトでIBMフェローの称号を持つルシア・プリー氏はグループインタビューに答え、企業向けのAIとしてWatsonが優れている点を明確にしてくれた。
「AIの基盤はデータだ。企業が持つデータこそが差別化の源であり、企業はそれらを保持し、守りたいと考えるはずだ。そこでわれわれは、ケーキのような3層のモデル構造を考えた。一番下はベースとなるジェネラルモデル、その上に業界ごとのモデル、そして一番上には企業固有のモデルを載せる。こうすることで企業はより少ないデータでモデルをトレーニングできるし、モデルやデータを守ることができる」とブリー氏。
例えば、Watson Assistantは2層目の業界モデルに相当し、主要な業界と事業領域に関するトレーニングが完了している。企業はこの上に固有のモデルをつくり、トレーニングすればいい。
昨秋、フランス大手通信事業者のOrangeがスタートさせたばかりのネット銀行、Orange Bankは、顧客の銀行体験をよりシンプルにするためにWatsonを採用、既に10万人を獲得した顧客に「Djingo」バーチャルアドバイザー機能を提供している。
基調講演のステージに登場したアンドレ・コイセンCEOは、「Watsonの学習スピードは速く、日を追うごとにDjingoが知識を深めている」と話す。
Orange Bankでは、Watsonとsalesforceの連携機能も活用し、どのチャネルからコンタクトしても一貫性ある対応ができるようオムニチャネル管理にも取り組んでいる。さまざまなビジネスプロセスに組み込むことができるのも企業向けAIに求められる大切な条件だろう。
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