「ダウンしない火力発電所」をクラウドで実現 AWS導入で東京電力が超えた「壁」とは約7億円の導入効果(2/2 ページ)

» 2018年06月11日 08時00分 公開
[高木理紗ITmedia]
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国内外の発電所を1拠点から監視する「遠隔監視システム」の仕組み

 現在、同社では、東京に設置しているリモート監視センターから、国内外の火力発電所をリアルタイムで監視している。その中心となる「遠隔監視システム」は、AWSで構成しており、収集したデータの分析や予兆検知、運転状態の可視化、発電効率管理、性能管理などを行う他社製のソフトウェアを動かす仕組みだ。

画像 「遠隔監視システム」の構成

 このうち、予兆検知システムは、正常に稼働している状態の発電所のデータを教師データとして機械学習を行い、発電所の稼働データとリアルタイムで比較することで、「配管が割れたことで、装置の温度が下がった」など、従来では気付けなかった装置の不具合などを自動的に検知する。異常を検知した場合、設備のデータをさらに分析し、ボイラーやタービンなどの各設備を熟知した専門家が詳しい状態を診断した上で、現地の発電所に連絡し、最適な対策を実施するという。

画像 「予兆検知システム」の構成

 予兆検知システムの導入により、同社では、機械を止めなくても対応できる段階の不具合も検知できるようになった。例えば、発電機に供給する水素の漏えいを防ぐある部品の振動の異常を検知した場合、その原因となっていた油の温度を調整することで、振動を正常な範囲に収め、その部品が壊れてしまう前に「延命」する措置を取ったという。

 国内の発電所を対象に試験運用を行った2017年には、想定外のトラブルで発電所が停止する日数を10〜20%程度削減した。亀井氏は、「予兆管理によるトラブルの防止の他、効率管理や性能管理によって燃料費などの運転コストも削減したことで、7億円程度の導入効果を上げた」と話す。

AWSリージョンの利点を生かし、積極的に海外へ展開

 同社は今後、「遠隔監視システム」を使ったO&Mサービスを全世界に展開し、風力発電所やプラントのディーゼルエンジンといった対象にも広げたい考えだ。「訓練を積んだエンジニアの数には限りがあり、必要に応じて国外の発電所に即座に出向くのは難しい。AWSを使った遠隔監視の仕組みには、こうした制限を取り払ってくれるメリットがある」と、鎌田氏は語る。

photo OMビジネス部営業統括グループマネジャーの鎌田嘉文氏

 同社では、O&Mに人材育成サービスを付け加えるなど、顧客のニーズに応じたサービス展開を進めている。また、O&Mの代わりに顧客から預かった発電所のデータを分析し、予兆検知や性能管理を行う新たなサービスなども検討しているそうだ。

 「現在も、AWSを使ったよりコスト効率の良いシステム構築を学んでいる。海外展開を進めているので、例えばフィリピンなど、顧客のいるアジアにAWSリージョンが増えていけば良いと考えている」(亀井氏)

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