私の働き方と人生を一変させた、ある先輩の痛烈な一言榊巻亮の『ブレイクスルー備忘録』(3/3 ページ)

» 2018年06月29日 07時00分 公開
[榊巻亮ITmedia]
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「短い、単独の矢印」が仕事をつまらなくする

 ここからは、あのとき僕に起こったことについて別の側面から考えてみたい。

 僕に起こったことは、「矢印理論」によって説明できる気がしている。

 抽象的なイメージで恐縮だが、大企業には、「矢印」が“短い”人が多いと思うのだ。

 「短い矢印」とは、運動量が少なく、自分の仕事だけを最小限の力でやろうとする人のイメージである。

 「余計な仕事はしたくない」「面倒に巻き込まれたくない」と思っていると、どんどん矢印が短くなる。矢印が短く、運動量が少ないと、他の矢印とぶつかる可能性も極端に小さくなる。そして、いつのまにか短い矢印(事なかれ主義。出すぎない主義)が企業の文化になっていく。

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 あのとき僕は、自分の短い矢印を全力で「引き伸ばして」みたのだ。

 そして、自分の矢印が伸びたことで、他の矢印とぶつかる機会が圧倒的に増えた。矢印と矢印のぶつかり合いによって、他人との違いが分かり、内省を深めるきっかけが生まれた。加えて、矢印と矢印がぶつかり合うことで、火花が散り、新しい何かが生まれる。新しい何が生まれると、運動エネルギーを高めるきっかけが増え、さらに矢印が伸びた。

 組織の中でバラバラだった矢印たちも、他の矢印とぶつかると、自然と方向性がそろってくる。周囲の人たちと考えていることや価値観がそろってくるのだ。そして徐々に一体感が出てくる。

 僕が全力を出すことで起こったことは、抽象的に語るとこういうことだ。矢印が短いと何も起こらない。ぶつかり合いもなく、当然方向性もバラバラのままだ。

最初に「長い矢印」になるヤツが、新たな「長い矢印」を育てる

 僕はコンサルタントという職業柄、相当な数の組織に出入りしてきた。そこで見てきたのは、伸びたいのにくすぶっている「短い矢印たち」だ。

 すごい才能や潜在能力を秘めているのに、環境によって抑制されてきた人たちが、組織には多数いる。鳴り物入りで一流企業に入ったのに、組織の論理に抑圧されている人たちがいる。冒頭で紹介した僕の友人も、そんなくすぶった矢印になりつつあるように思う。

 そういう人たちは、ちょっとしたきっかけがあると、すぐに変わる。ちょっとしたことで、すぐに「長い矢印」に化けるのだ。

 一番よいきっかけは、長い矢印を目の当たりにすることだ。「あ、ここまでやっていいんだ」「ここまでやるとこんなに楽しくなるんだ」と気付くと、あとは勝手に長い矢印に化けてくれる。これは、人を“育てる”ということではなく、“勝手に育つ”という感覚につながるものだ。

 育つきっかけを作るには、長い矢印になる「ファーストペンギン」が必要なのだ。誰かがバーンと長い矢印になれば、その影響は周囲に波及する。

 あなたの周りに長い矢印がいないなら、仕事に愛想を尽かしているなら、ダメ元でいいから、あなたにファーストペンギンになってもらいたい。あなたが長い矢印になることで、組織が大変革するきっかけが生まれるかもしれない。

 なんにしても、自分を抑制して短い矢印のまま終わるのは、本当にもったいない。

 一度くらい長い矢印になってみようぜ。会社を辞めるのはそれからでも遅くない。

著者プロフィール:榊巻亮

コンサルティング会社、ケンブリッジのコンサルタント。一級建築士。ファシリテーションとITを武器に変革プロジェクトを支援しています。

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