“ヒップホップ”なスクラムマスターが見せてくれた、リーダーの資質古参技術屋の見聞考察備忘録(1/2 ページ)

米シカゴで開催されたアジャイル開発フレームワークのトレーニングで筆者が出会ったのは、威圧的な風貌の“ヒップホップ”なブラザー。実はスクラムマスターだった彼がトレーニングに参加した理由とは……。

» 2018年07月29日 07時00分 公開
[津吉政広ITmedia]

この記事は津吉政広氏のブログ「古参技術屋の見聞考察備忘録」より転載、編集しています。


チーム・アーモンドバター

 アジャイル開発フレームワーク「SAFe(Scaled Agile Framework)」のトレーニングをシカゴで受けた時のことです。4日間の「SPC(SAFe Program Consultant)」トレーニングの第1日目が始まろうとしていた時、まだお互いをあまり知らない参加者たち24人は、5つのテーブルに分かれて座り、少し緊張した面持ちでインストラクターがトレーニングを始めるのを静かに待っていました。

 まさにその時――、いきなりドアが勢いよく開き、慌てて教室に駆け込んできた1人の参加者がいました。緊張した空気をものともせず、大声で「間に合った!」と言いながら空いている席を探し、事もあろうにたまたま空いていた僕の隣の椅子にドカッと腰を下ろしました。

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 僕は彼を見ながら「まいったな」と心の中で舌打ちしました。というのも、シカゴ・カブスの帽子を斜めに被り、あちこちに入れ墨やピアスをしているアフリカ系アメリカ人の彼は、見るからに“ヒップホップ”を地でいくタイプだったからです。SAFeのコンサルタントを目指す参加者たちの中で、彼の存在は異様でした。

 それでも一応「ハイ」とあいさつしてみたところ、低い声で「ヨウヨウ」と返事が返ってきたので、「ああ、やっぱりこの手のノリの人か」と、これからの4日間を思い、少し暗い気持ちになりました。それに、きっとここまで走って来たのでしょう、彼と握手した僕の手は彼の汗でベトベトになってしまいました。

 そして彼が急に、バックの中に手を突っ込んでゴソゴソと何かを探し始めたので、きっとノートとペンでも準備するのだろうと思って見ていたところ、何とアーモンドバターの瓶とプレッツェルの袋を机の上にデンと置き、プレッツェルにアーモンドバターをたっぷりと付けながら、むしゃむしゃと食べ始めたのです。「まだ朝飯食ってないんだよ」と言いながら、僕にもプレッツェルを「食う?」と勧めてくれました。

 隣のテーブルには、きれいなお姉さんがいました。「テーブルを移るのは今しかない」と焦っていたところ、インストラクターから「それぞれのテーブルのチーム名を決め、チーム名簿と一緒にポスターを作るように」と指示が出ました。

 彼は、アーモンドバターの瓶を手にしながら、「チーム名はアーモンドバターでいい?」と聞くや否や、テーブルに座る他の4人の返事を待つか待たないかの間に、大きな紙にこれまたヒップホップ調の落書き(グラフィティ)風に、見事なポスターをあっという間に作ってしまいました。僕はきれいなお姉さんのいるテーブルに移ることも忘れ、彼の才能にあっけにとられてしまいました。

アルバイト警備員だった彼

 休み時間に、今、何をしているのかを彼に聞いてみました。すると、あの世界最大のスーパーマーケットチェーンであるウォルマートのソフトウェア開発部門でスクラムマスターをしているというのです。

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 彼は以前、ウォルマートのあるの建物の中で警備員のアルバイトをしていて、いつも休憩所にやってくるソフトウェア・エンジニアやマネジャーたちと仲良くなり、マネジャーからの誘いもあって、スクラムマスターとしてウォルマートに正式採用されたというのです。

 このたった4日間で2600ドルもするトレーニング費を快く出してくれたのも、そのマネジャーだと言っていました。「へー、そんなこともあるんだね」と相づちを打ちながら、あまりにも意外な彼の話の展開に、時間が過ぎるのを忘れてしまいました。

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