「ごみデータ」を入れれば「ごみ」が出てくるだけ――変化の時代に勝つためのデータ活用、IT部門はどう関わればいい?CIOへの道【フジテックCIO 友岡氏×クックパッド情シス部長 中野氏スペシャル対談】(1/5 ページ)

変化の時代に勝ち残る企業になるためには、データを駆使したリアルタイム経営が欠かせない。生きたデータを経営に生かすために、情シスができることは何なのか――。フジテックCIOの友岡賢二氏とクックパッド情シス部長の中野仁氏が、対談で明らかにする。

» 2018年12月29日 07時00分 公開
[後藤祥子ITmedia]

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この対談は

クラウド、モバイル、IoT、AIなどのめざましい進化によって、今やビジネスは「ITなしには成り立たない」世界へと変わりつつあります。こうした時代には、「経営上の課題をITでどう解決するか」が分かるリーダーの存在が不可欠ですが、ITとビジネスの両方を熟知し、リーダーシップを発揮できる人材はまだ少ないのが現状です。

今、ITとビジネスをつなぐ役割を果たし、成功しているリーダーは、どんなキャリアをたどったのか、どのような心構えで職務を遂行しているのか、どんなことを信条として生きてきたのか――。この連載では、CIOを目指す情報システム部長と識者の対談を通じて、ITとビジネスをつなぐリーダーになるための道を探ります。


フジテック常務執行役員 情報システム部長 友岡賢二氏プロフィール

1989年松下電器産業(現パナソニック)入社。独英米に計12年間駐在。ファーストリテイリング業務情報システム部の部長を経て、2014年フジテックに入社。一貫して日本企業のグローバル化を支えるIT構築に従事。


クックパッド コーポレートエンジニアリング部 部長 兼 AnityA 代表取締役 中野仁氏プロフィール

国内・外資ベンダーのエンジニアを経て事業会社の情報システム部門へ転職。メーカー、Webサービス企業でシステム部門の立ち上げやシステム刷新に関わる。2015年から海外を含む基幹システムを刷新する「5並列プロジェクト」を率い、1年半でシステム基盤を構築し直すプロジェクトを敢行した。2018年、AnityAを立ち上げ代表取締役に就任。システム企画・導入についてのコンサルティングを中心に活動している。システムに限らない、企業の本質的な変化を実現することが信条。


 「日本にCIOという職業を確立させる、それが私のミッション」――。その言葉通り、日本全国津々浦々の“お座敷”で講演を行い、CIOの必要性を説いているのがフジテックのCIO、友岡賢二氏だ。CIOが果たすべき役割とは何か、選ばれるためにはどんな経験や考え方が必要なのか――。

 本対談の前編では、友岡氏とクックパッド 情シス部長の中野仁氏が、変化の時代を生き抜くために欠かせない「データ活用」について、また、真に使える生きたデータを生成するために情報システム部門がすべきことについて、対談を通じて明らかにする。

フジテック CIOの友岡賢二氏(画像=右)とクックパッド情シス部長の中野仁氏(画像=左)

世界で勝つためには“足元のデータ連携”がキモに?

中野氏: 今回の対談が実現すると分かったとき、松下電器産業(現パナソニック)出身の友岡さんにぜひ、お聞きしたいと思っていたのが、「グローバルで勝つための仕組みをどう作るか」だったんです。なぜかというと、今、まさにクックパッドではそんなシステムを構築しているところなんです。

 クックパッドは2016年に企業としての戦略が大きく変わったんですね。それまで国内中心にさまざまなドメインで事業を展開していたのが、体制変更以降は料理のレシピにフォーカスしてグローバル展開することが決まりました。

 グローバルで戦うとなると、海外も含めて情報を網羅できる仕組み作りが求められるので、システムもそれに合った形にしなければならない。しかし、当時のシステムは事業部がそれぞれの判断で選んでいたこともあって、分散と分断が起こっていたんです。そして、それぞれのシステムの間はExcel職人が手作業でつないでいるような状況でした。

友岡氏: それを、“海外でスケールすることが前提”のシステムに変えなければならなかったわけですね。

海外で勝っている企業のシステム構成は驚くほど似ていた

中野氏: そうなんです。そこでお手本にするために、海外で成功している企業のシステム構成を聞きに行ったんですよ。すると、どの企業のシステムもシンプルで一貫性があって、スケールすることを前提としてシステムが組まれているわけです。会社の戦略を実行するために、スピーディーな意思決定ができるシステム構成になっていました。システム構成が標準化していて、最初から海外への展開を視野に入れているとしか思えない。

 正直、当時のシステムのまま海外展開しても「勝てるわけがない」と思い知りました。

 そういう背景もあって、グローバルで成功している企業のシステムを参考にしながら、構想も含めて約1年半かけて“海外で戦えるシステムの屋台骨”を作りました。ポイントは3つ。「海外展開を想定したスケール前提の仕組みを作る」「労働集約的な作業は可能な限りシステム側で行えるようにして、スタッフが“人にしかできない仕事”をできるようにする」「“情報システム”という名前の通り、情報を使えるようにする」ということでした。

世界で勝つためのシステム選びの条件は

友岡氏: どのような条件でシステムを選んだんですか。

中野氏: 幾つかあるのですが、システム的な要件としては「システム運用は可能な限り省力化する」「システム連携(API・SSO)を前提とする」「海外でも同じシステムを利用できるようにする」という3点は重視しました。グローバルで戦うWebサービスの場合、いかに変化に即応できるシステムにするかが最優先です。しかし、組織は小さいので、運用管理に人手を掛けるのは難しい。ここでいう「運用」とはハードウェアの更新やパッケージソフトのバージョンアップ、システム間の手連携といった作業のことを指します。極端な言い方ですが「運用を捨てる」方向に振り切ったところはありますね。

Photo 体制変更前と変更後のクックパッドのシステム構成

友岡氏: 刷新後のシステムは、クラウドのおいしいところを総取りしたようなシステムに仕上がっていますね。

中野氏: 確かに構成上はそうなっていますが、やってみて分かった課題もたくさんあります。例えば現状の大きな課題は、システム間のデータ連携ですね。とにかくシステムの複雑性を下げるために、システムの数は可能な限り絞りました。システムが多い分だけ、連携のパスは増え、システム運用負荷が上がってしまうので。

システムを構築してみて分かった「データ連携」の重要性

中野氏: システム数を絞るためには、システムの汎用性がある程度高いプロダクトを選ぶことになる。例えばSalesforceやServiceNowのようなプロダクトですね。これらはSaaSというよりPaaSです。汎用性が高いというメリットもありますが、一方で個別の業務に特化したサービスより複雑で、構築や運用のノウハウが必要です。アプリケーションというよりもプラットフォームですからね。それぞれやれることが多いし、データも柔軟に出し入れできますが、適切な導入と、運用についてもプラットフォームに対する理解が必要です。要は簡単につなげない。

 大量にあったシステムを、ある程度の粒度のプラットフォームにまとめたところまでは良かったのですが、実際にデータを流そうとすると、プラットフォームごとにデータモデルが違うんですよ。プラットフォームごとの設計思想がハッキリしています。

 それをうまくつなげるには、データ連携部分の設計を丁寧にやる必要がある。コネクターはありますが、それをつなぐだけでは足りなくて、その先のデータ設計まで考慮しないといけない。つなぐ土管だけを合わせても、そこを通す水路まできちんと考慮しないとうまくいかないんですね。

データの種類が少なくても連携に苦労するわけ

中野氏: Webサービスを展開しているクックパッドは、メーカーと違って生産や販売がないから、「メーカーのデータに比べたら連携はラクだろう。商品マスターや部品表とかないし〜」と思っていたのですが、甘かった。確かにデータの種類は少ないのですが、データの持ち方が違うところを合わせるのが結構、大変なことが分かったんです。

 ワークフローを例に挙げると、設計する前は「社員マスターと組織マスターを連携させれば済む」と思っていたのです。これを実際にやってみると、クラウド系のシステムはそれぞれマスターの持ち方が微妙に違うことが分かりました。特にワークフローに必要な組織情報やセキュリティコントロールに必要な情報は、データ連携でつなぐのが非常に難しい。

 しかも日本企業にありがちなことですが、組織構造的に不明確な役職、兼務のときはどうするのかとか、プロセスにも例外処理がやたらと多い。外資系システム導入あるあるですが、職務分掌と上司部下関係が比較的明瞭であることが前提なので、曖昧な構造を持つ日本企業と相性が悪い部分がある。

 そんなわけで、そのまま“右から左に社員情報や組織情報を土管で流せばよい”、というわけにはいかなかったのですよ。

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 社員組織マスターにしても、システムごとに微妙に持ち方が違うので、それをどう吸収するかを配慮しなければならなかった。だから今は、ゴールデンマスターデータみたいなものを作る必要があるね、という話をしています。MDM(マスターデータマネジメント)まではいかなくても、ゴールデンマスターデータでシステム間のデータモデルの差異を吸収し、データを再利用できるようにする。BIや他のシステムでのデータ利用には直接APIでつながせて、って思っていたのですよ。でも、多分それを考えなしにやると、遠くない未来に運用が複雑化して破綻する予感がすごくします。

アプリの疎結合化を考えないと大変なことに……

中野氏: また、システム間のデータ連携では、アプリの疎結合化を考慮し切れなかったことについての学びがありましたね。各アプリケーションの間はInformaticaのIICS(Informatica Intelligent Cloud Services)を介してつないでいて、データのつなぎ方自体は標準化できました。いわゆるEAI(Enterprise Application Integration)の領域です。CSVによる手連携やダブルメンテナンスはもちろん、手組みのプログラムによる連携があちこちに混在して“何がどうつながっているのか分からない状態”は回避できました。データ連携部分は魔窟化しやすいので、つなぎ方を標準化できたことで一定の秩序は確保できた。

 しかし、各システム同士をInformaticaの中で直接つないでいた。つまり、システム間が密結合化してしまったので、エラーが起きた際の切り分けが難しく、影響が出たときのリカバリーが大変なんですよ。運用負荷がひどく高くなってしまうことに気が付いたんです。

 そこで、システムの真ん中にデータハブをかませて、そこから配信するような方法を採るべきだったなと。この部分は、最初の段階から手を付けておくべきで、後でやればいいと思っていたのは良くなかったかもしれない。

 ただ、これも「振り返ってみるとそうだった」という話で、当時はそこまで考える余裕が全くなかったのですけども……。5並列でプロジェクトを走らせていたので、時間的な余裕がなかった。クラウドシステムを組み合わせるからこそ、データ連携というか、システム間連携についてちゃんと考えないといけない。

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友岡氏: 現実的にはデータベース連携が一番ラクになってしまいますね。

中野氏: 本当は第2フェーズで、データウェアハウス(DWH)を考えるときにデータベース化はやればいいか、と思っていました。でも、第1フェーズでもある程度、やるべきだったなと。ちょっとそこの見積もりが甘かった。フジテックでは、データ連携部分はどうしているのですか?

友岡氏: データ連携はまだまだ十分とは言えません。連携させる手前の、コードをそろえたりするところで苦労しているのが実態であり、ステップバイステップで連携を進めています。こういうことはグローバルな大企業にありがちなことですが……。

中野氏: 異なるシステム同士をつなごうとすると必ず現れる、コード体系の見直しと、あとは絶対に発生する名寄せですよね。この手の仕事は「グズグズなのを何とかする」という、約束された負け戦ですよ(笑)。

友岡氏: そうそう。まずはコード標準化の問題と、それを業務実装したマスター化の問題があって、それをクリアしても、今度は「マスターを各国のレガシーシステムにどういうふうに連携させるか」という問題がある。そこはまさに連携の仕組みだと思いますが、そのあたりはまだ十分できていないですね。そこに注力するよりも、「まずはグローバルでの利用用途に合わせて各国で変換してデータを出す」という形で連携させるスタイルですね。

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