SI(システムインテグレーション)ビジネスには、「クラウド化」「自動化」「内製化」という“3匹のお化け”が取りついています。そのお化けたちが、従来の需要を食べ尽くしてしまい、景気が回復しても、これまでと同様の需要が戻ることはありません。
クラウド化は、物販の需要を減らし、個別構築が必要だったデータセンター内のネットワークが不要になります。拠点間のネットワークは、クラウドの高速、広帯域のバックボーンネットワークに代替されます。間もなく登場する「5G」(第5世代移動通信システム)は、LANやIP-VPNなどの自前の閉域網を置き換えていくでしょう。そうなれば、ネットワーク構築に伴う工数需要が大きく減少することは避けられません。
また、クラウドの需要はインフラ(Infrastructure as a Service、IaaS)からプラットフォーム(Platform as a Service、PaaS)やアプリケーション(Software as a Service、SaaS)へとシフトしています。これに伴い、運用管理やセキュリティはクラウドが担います。さらにアプリケーション開発の高速化や変更への柔軟性が求められるようになり、サーバレスやFaaS(Function as a Service)、コンテナ、マイクロサービスが普及するでしょう。
こういった状況に対応できているSIer(システムインテグレーター)はまだ少ないのが現状です。というより、対応することは、工数需要を減らすにつながるので、あえて手を出さないのです。
「Office 365」や「Windows 10」が普及すれば、セキュリティや認証管理の仕組み作りは、今までに比べて大幅にシンプルになり、簡素化されます。それに伴い、導入や構築に伴う工数は、確実に減少するでしょう。VDI(デスクトップ仮想化)も過去のものになる可能性があります。
一方で、既存のシステムのアーキテクチャを刷新し、クラウドをベースとした新たなアーキテクチャへ移行することは、技術的になかなか大変です。従って、これを実現できる技術力が重要になります。
クラウド化は、確かに既存の物販や工数の需要にとっては脅威です。しかしそれに対応するための技術力は、新たな需要を生み出し、ビジネスチャンスを拡大させます。
自動化は、クラウド化を背景に、運用管理やセキュリティの多くの範囲をカバーします。
アプリケーションの開発において「完全自動化」は、容易に実現されることはないものの、自動化はPaaSやサーバレス、FaaSの普及、フレームワークの充実、超高速開発の機能の向上とともに、開発スピードの高速化、変更への柔軟性、俊敏性を高めるでしょう。アジャイル開発やDevOpsは、このような需要を支える土台となります。
アジャイル開発やDevOpsが目指すのは、ビジネスの現場にジャストインタイムで必要なサービスを提供することです。決して、短期間、低コストでシステムを開発し、運用することではありません。
ビジネス環境の変化が加速する中、その環境に即応して、ビジネスプロセスを変更したり、必要なサービスを迅速に提供したりすることが、企業の生命線になりつつあります。自動化はこの取り組みを支える前提になります。
内製化は、デジタルトランスフォーメーション(DX)時代を迎え、新しい常識となるでしょう。その背景には、ITが事業の競争力を生み出し、差別化の要件になることを多くの企業が認識しはじめたことがあります。
ITはこれまで、本業の生産性や経費の削減を支援するための「道具」として認識されてきました。そのため、ITは経費であり、少しでも削減することが求められてきました。
しかし、ITが競争力の源泉になるとすれば、もはやITは本業であり、企業のコアコンピタンスになります。それを外注することは考えられず、内製化へとユーザー企業を突き動かすでしょう。IT予算は経費から投資へと変わるので、SIerが高い技術力を提供し、内製化を進める企業の事業に貢献できれば、利益率の高いビジネスになるでしょう。
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