企業向けのクラウドは、ここ数年で圧倒的に充実し、IaaSやPaaSなどその機能や運用の選択肢も増えた。顧客やニーズの変化を受け、大手ベンダーはときに競い合い、ときに手を組む。その裏側に見える各社の狙いや、未来への展望を探った。
「Amazon Web Services(AWS)」、日本マイクロソフトの「Microsoft Azure(以下、Azure)」、Googleの手掛ける「Google Cloud Platform(GCP)」、IBMの「IBM Cloud」――企業向けのクラウドは、ここ数年で圧倒的に充実し、その機能や運用の選択肢も増えた。日本企業が「大事なデータをクラウドに乗せるなんて」と戸惑っていたのも今は昔。多かれ少なかれ、大半の読者が業務でクラウドを扱った経験を持つのではないだろうか。
企業にとってクラウドの選択肢が広がる中、オンプレミスとクラウドを両方運用する「ハイブリッドクラウド」や、複数ベンダーのクラウドを同時に運用する「マルチクラウド」といった形態も広がりつつある。多様化する企業のニーズに応えるべく、ベンダーはどう成長を遂げ、あるいは苦戦しているのか。クラウド市場を長く取材する記者が振り返る。(編集部)
最近の国内クラウド市場で大きな存在感を持つのはAWSだ。同社はパブリッククラウド、中でもIaaS(Infrastructure as a Service)とPaaS(Platform as a Service)分野で圧倒的なシェアを持ち、後に続くAzureやGCPとの差を広げている。
先日開催された「AWS Summit Tokyo 2019」の基調講演には、日本法人の社長である長崎忠雄氏が登壇。ガートナーのグローバル市場におけるIaaS型クラウドの市場調査結果を引き合いに出し、「パブリッククラウドのシェアでAWSは51.8%を獲得し、圧倒的なNo1ポジションにある。この数字は、2、3、4位の企業のシェアを合わせて2倍した数字よりも大きい」と自信を見せた。
一方、クラウドでもSaaS(Software as a Service)の切り口で見れば、Salesforce.comが圧倒的な市場リーダーだろう。また、Oracleはもう1社のリーダーといえる。2019年にやっと国内クラウドデータセンターを開設した同社は、包括的な機能を持った「ERP Cloud」を擁する。2016年には、買収先であるNetSuiteの中堅中小企業向けSaaS ERP「NetSuite」が、同社のSaaSに加わった。
ところで、SaaSの範囲に「Office 365」のようなソフトウェアを加えれば、Microsoftはトップシェアを持つといえる。同じように「Creative Cloud」を提供するAdobeも、調査によってはSaaSでリーダーに位置付けられる。
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