「クレイジー」だったビジネスモデルが、たった数年で世界を変えた特集:サブスクリプション×DX(1/3 ページ)

ビジネスのサブスクリプション化が止まらない。従来とは全く異なる価値観に基づいたサービスや、それに伴うビジネス設計、企業の財務指標など、あらゆるものが変化する。企業が「顧客にとっての価値」を見極め、変化の時代に追いつくためには、何をすればいいだろうか。

» 2019年10月08日 07時00分 公開
[指田昌夫ITmedia]

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 サブスクリプション(以下、サブスク)ビジネスは、従来の「作り込まれた完璧な商品を売る」モデルとは異なったものとなり、それに伴ってサービスや企業の財務指標など、あらゆるものが変化する。

 Zuoraはサブスク型のビジネスに最適化したSaaS(Software as a Service)アプリケーションを提供するソフトウェア企業だ。日本に進出したのは2015年。同年は「Netflix」や「Apple Music」の日本版が始まった年で、「日本のサブスク元年」ともいわれている。

 サブスクは、たった数年で世界のビジネスシーンを大きく変えてしまった。今後ますます加速する変革に、企業はどのような価値提供を目指していくべきか。Zuora Japan社長の桑野順一郎氏に語ってもらった。

「クレイジー」から一転、クラウドサービスの普及とともに急成長

Zuora Japan社長 桑野順一郎氏 Zuora Japan社長 桑野順一郎氏

 Zuoraの創業者ティエン・ツォ氏は、salesforce.com(以下、salesforce)の創業メンバーの一人で、11番目の社員だった。salesforceで10年間働き、2007年にZuoraを創業する。創業当時、周囲からは「サブスクリプションをビジネスにするなんて、クレイジーだ」と言われた。

 しかし、2008年にリーマンショックが発生し、企業はコスト削減に追われることになる。それまで信頼されていなかったクラウドを本格的に利用しようという機運が高まり、クラウドベンダーが急成長を始めた。そして、彼らのビジネスモデルとしてサブスクにも注目が集まるようになった。2013年には、Adobeが自社サービスの販売モデルをパッケージからサブスクに移行することを宣言。その後、3〜4年のうちに、サブスクは急速に広まった。

鉄道、ギター、菓子――世界のB2Cサブスク成功例

 現在、世界中のあらゆる業界で、ビジネスのサブスク化が加速している。

例1:若者限定の鉄道乗り放題プラン

 フランス国鉄(SNCF)は自社の運行する高速鉄道「TGV」で、16〜27歳という若者を対象に格安の定額乗り放題プランを提供している。このサービスは、従来の競合――航空会社や自動車メーカーといった既存のモビリティ――に対抗するためのものではない。

 現代の若者は車を買わず、旅行にはライドシェアサービスを利用する。そのため、「鉄道」という手段がスルーされてしまっている。TGVの乗り放題プランは、激安サービスの利用をきっかけに鉄道の良さを知ってもらい、鉄道旅行を将来の選択肢に残すことを目的としている。

例2:演奏体験に寄り添い、ギターを諦めさせない

 米国のギターメーカー、Fender Musical Instruments(以下、Fender)は「Fender Play」というギター練習アプリで、楽器を買った人の演奏体験に寄り添い、個別の上達をサポートしている。これは、「ギターを始めた人の90%が1年以内に挫折する。つまり、ギター演奏の習得を諦める人が10%減れば、同社の売り上げは2倍になる」という説に基づいたサービスだ。

 これまでFenderは、同社の作った楽器を誰が買って、どのように使っているかの情報を持っていなかった。しかし、同サービスによって、顧客と直接つながれるようになった。Zuoraではこれを、D2C(Direct to Customer)と呼んでいる。

例3:定番の安心感と新たな出会いを「お菓子」で提供

 英国のgrazeは、菓子のサブスクで急成長している。契約をした顧客には、毎月4種類の、オーガニックな菓子が入った箱が届けられる。届いた商品の感想を詳細に聞き、フィードバックすることで、商品構成を顧客の嗜好(しこう)に合わせて変えていく。

 また、Graceは、アンケート結果から必ずしも「顧客の好みのもの」だけを詰め合わせにして送るだけではなく、必ず「新しい提案」となる商品を同梱(どうこん)する。顧客にとっては新たな出会いとなり、翌月が楽しみになる。

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