NECがDX事業の強化に乗り出した。最新技術の提供形態を示したデジタル基盤を整備するとともに、顧客企業のDXを支援する組織を新設。その組織の在り方で、競合する富士通との違いが浮き彫りになった。
「デジタルトランスフォーメーション(DX)事業を推進するうえで“出島”は必要ない。全社組織をシフトしていけるような体制にしないと、DX事業はうまくいかないと考えている」
こう語るのは、NECでDX事業推進の責任者を務める吉崎敏文執行役員だ。同社が先頃開催した、DX事業の強化に関する記者説明会での発言である。
吉崎氏が言う「出島」とは、DX事業を別会社にしたり、別組織として場所を隔離したりして推進することを意味する。企業のDX事業の進め方として、スピードを重視して出島方式を採用するケースが注目されているが、同氏の発言はそれに異論を唱えた格好だ。
この出島を巡る話は後ほどまた取り上げるとして、まずはNECが今回強化を発表した内容について紹介しておこう。
同社が全社横断でのDX事業を本格的に推進し始めたのは、吉崎氏が日本IBM執行役員でWatson事業の責任者だった前職から2019年3月にNECに転身した翌月の4月からだ。
同氏によると、2019年4〜6月は生体認証・映像事業をモデルにデジタルフレームワークやデジタルHubを整備した。その取り組みとその後の計画を説明した当時の会見については、2019年6月24日掲載の本連載「デジタルビジネスに挑む企業の“映し鏡”に――NECの新たな取り組みは奏功するか」を見ていただきたい。
2019年7〜9月は、デジタルフレームワークをAIやクラウド、ネットワーク、サイバーセキュリティへの対応にも広げ、2019年10月以降はそれらを融合してオファリングの高度化を図っている。
そして、今回の会見では2つの新たな強化策を発表した。まず1つは、デジタルフレームワークの提供形態を図1のように5つのレイヤーで示した「デジタルプラットフォーム」を整備したことだ。同氏によると、「ネットワークからアプリケーションまでシングルアーキテクチャで統合したことにより、使い勝手を大幅に向上したのが特徴だ」という。
図2は、デジタルプラットフォームの提供例として、デジタルIDによる空港の搭乗手続きについて紹介したものである。「デジタルIDはこれからさまざまなシーンで使われる可能性があり、新規市場として非常に有望だ」(吉崎氏)というのが、この図を紹介した意図のようだ。
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