ある大手企業は、「会議中の議事録作成はNG」という旧態依然とした文化を一新させ、ある中小企業は管理業務のほぼ全てを担う担当者の退職を乗り越えて、効率的な業務フローを実現しました。企業規模別の「効率化を阻む壁」とその乗り越え方を、事例で紹介します。
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1971年12月生まれ。大分県出身。慶應義塾大学経済学部卒業。
1999年7月、人材派遣業のアークパワー設立。2001年4月、同社代表取締役就任。2013年4月、キューアンドエーグループ傘下(NECネッツエスアイ連結対象会社)となり、2015年7月、キューアンドエーワークスに社名変更。RPA市場においては「新・雇用創造」を掲げ、「業務の可視化」普及を通じてさまざまな人々の「創造する時間」を生み出し、デジタルレイバーと協働する労働環境をデザインすることによって、真の働き方改革を起こす。2016年7月、一般社団法人日本RPA協会の理事に就任。2019年6月より可視経営協会の代表理事も務める。
本連載は、企業において、思った以上に意味のない業務が暗黙のうちに引き継がれていること、また、せっかく作った既存システムを止めるのは「もったいない」という感覚が邪魔をして、その「おもり」に膨大な時間が費やされていること、あるいは、その両方が起こっているにもかかわらず、人事戦略の「ジョブローテーション」によって問題意識の芽がつまれ、改善機会が奪われていることを述べてきました。
そして、これらの課題に対して、業務の流れを可視化する「可視化ツール」で改善点をあぶり出せば、どのような企業であっても無理なく業務の「お片付け」ができることを「RoboRoid-HIT.s」を例にとり説明してきました。
多くの企業が、可視化の実施を通じて生産性を向上させています。そうした企業は、どのような壁を乗り越え、どう生産性向上を成し遂げたのか? 連載最終回の今回は、企業規模別になぜ「ムダ」が発生するかをひもとき、実際にムダを改善した企業の事例を紹介します。
(参考)第1回:RPA失敗の構図――あなたの会社にも潜む引き継ぎという名の魔物
(参考)第2回:企業を蝕む「引き継ぎの魔物」、退治する4つの心得を伝授
(参考)第3回:「もったいない星人」の暗躍で会社が病む 迫りくる2025年の崖
(参考)第4回:ナナメ読みしている資料に数百万円―ーその業務コスト、分かっていますか?
事例を紹介する前に、企業規模に関係なくムダが発生する原因を把握しておきましょう。社歴の長い企業において「けしからん!」の一言が多ければ多いほど、ムダの発生源があると言えます。なぜならば、上司、先輩の目から「けしからん」と映る業務にこそ、「過去にとらわれたムダな業務手順」が含まれているからです。
年月が過ぎるということは、技術が進化し、それに伴い若者の意識も常識も、上司や先輩の時代とは変遷するということです。それに逆らって、前例主義に倣い「基本」に忠実な業務の進め方に拘るのであれば、時代遅れになることは避けようがありません。
そうならないための防止策として、まずは「基本」の業務フローを棚卸しして「可視化」し、整理整頓し、定期的な改善サイクルを回すこと、つまり「継続的な見直し」が有効です。この成功パターンを念頭において、事例を見ていきましょう。
大企業においては、「内部統制の浸透をどのようなアプローチで行ったのか」によって、ムダの発生具合が極端に違うと言えます。
例えば、内部統制の観点からエビデンスを残すことを強調される方がいます。しかし、そのエビデンスを要求する際、ただ単に規則主義に基づいて、「右は右、左は左」と言うだけであれば、求められた現場従業員の思考は停止してしまいます。「余計な改善はするな! いいから決まったことをやり続ければ良い!」と要求されているに等しいからです。
たとえ、運用が始まった業務であっても「いつ見直すべきか?」を決めておかなければ、どんな仕組みも陳腐化を避けられません。
この普遍的原理に基づいて、まずは原点に立ち返り、「生産性向上における効率化とは何か?」を持続的に考えられるよう組織を作り変えることが大切です。
その実現に向けて、まずは基本的な業務を可視化して、整理された業務自体をエビデンスとして残し、それ以降、そのエビデンスに随時変更をかける仕組みを徹底すれば、変更箇所を常に明確にできます。現場では、前例に縛られることのない柔軟かつ自律的な改善活動が実施可能になります。
さらに管理側は、業務手順の陳腐化を回避しつつ、過去からの業務手順の変遷を俯瞰しながら内部統制を徹底できます。まさに現場側の効率化と管理側の内部統制を見事に調和させた方法です。
某大手食品メーカーでは、会議の議事録作成において、会議中にパチパチとPCを打つことは「けしからん!」と、議事録を作らず会議に集中することを徹底していました。
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