このように自らの目標を掲げ、それを達成するための3つのアクションについて述べた鈴木氏は、ビジネスの重点領域として図2に示す5つを挙げた。
この中で、特に「デジタルエコシステム」は、2019年12月16日掲載の本連載記事「SAPジャパンが示すDX支援『エコシステム』型協創は定着するか――SAPジャパン福田譲社長に2020年の展望を聞く」を参照いただきたい。ちなみにこの記事の時点では、福田氏が退任することは明らかになっていなかった。
さらに鈴木氏は、同社のERP(統合基幹業務システム)の最新版「SAP S/4HANA」(以下、S/4HANA)を2019年に導入決定した日本企業のうち6割がクラウド版を採用したことを明らかにした。「今やS/4HANAもオンプレミスよりクラウド版のほうが勢いがある」(鈴木氏)
同氏によるとS/4HANAは2015年に出荷されて以来、顧客数はグローバルで1万3800社を超えたという。日本での顧客数は明らかにしていないが、クラウド採用率については日本が先行しているようだ。
SAPが先頃、従来版ERPのサポート期間を2025年から2年延長すると発表したことについても言及しておこう。鈴木氏は会見でサポート延長の理由について「ERPの刷新を機に会社全体のDXをどのように推進していくか十分に検討したいとのお客さまのご要望に応えたものだ」と説明した。このため、従来版ERPの顧客からは歓迎する声が上がっているとのことだ。
ただ一方で、筆者の耳には複数の関係者から「既存のSAP ERPユーザーの中には、ERPそのものの刷新より、効果が短期間で見込める顧客対応などのDXに先行投資したいと考える企業が少なくない」との話が入ってきている。こうしたユーザーの声は、鈴木氏が説明したサポート延長の理由と相反するものではない。しかしSAPにとって今回の発表は良くいえば「Customer First」、その一方で苦渋の判断とも見て取れる。
最後に、今回の会見で、時代の変化を探る上で筆者が興味深く感じた福田氏と鈴木氏のコメントを挙げる。
「私が社長に就任した当時、SAPはERP以外の領域にフォーカスしようとしていた。しかし日本企業にはIT基盤となるERPの活用をもっと推進する必要があると考えて、これまで5年半余り、クラウド利用も合わせて注力してきた。現状を見ると、その方向は間違いなかったと考えている」(福田氏)
「私がSAPジャパンに入社した2015年は、S/4HANAの出荷が始まったときで、当時に担当した小売業界ではSAP ERP自体があまり使われていなかったこともあって、ビジネスとしては厳しかった。その後、グローバル化やDXの機運が高まり、お客さまも5年後、10年後を見据えたデジタル基盤の必要性を強く感じられるようになり、S/4HANAが採用されるケースがここにきて加速している。こうした勢いは全業種に広がりつつあり、これからの5年は多くのお客さまでS/4HANAをベースとしたDXが進むものと確信している」(鈴木氏)
提供するものが「プロダクトからクラウドのようなサービスへ」、ビジネスの仕方が「販売からデジタルエコシステムのような協創へ」、そしてテクノロジーのありようが「ITからDXへ」と変化しつつあることを感じさせられたSAPジャパンの会見だった。
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