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» 2020年02月27日 07時00分 公開

交錯する期待と現実:量子時代の前に「企業が必ずやっておくべきこと」とは? 2019年に躍進した量子コンピュータの“現状”を振り返ろう【後編】

これから、量子コンピュータが本格的に実用化される“量子の時代”が来る――。そんな話が飛び交うようになった。しかし、その活用先が具体的にどこになるか、どんな企業なら量子コンピュータを活用できるか、現実的な視点で考えたことはあるだろうか?

[渡邉利和,ITmedia]

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 2019年、量子コンピュータの注目度は一気に跳ね上がった。その背景には、量子関連ベンチャーの創業を後押しする日本政府の動きなども絡んでいる。今後は研究だけでなく「ビジネス」の文脈でさまざまな取り組みが進むだろう。しかし、ありとあらゆる企業が量子コンピュータの活用に取り組むべきかというと、必ずしもそうではない。

 量子コンピュータの基本的な仕組みと現状を振り返った前編に引き続き、後編では2019年に話題になったGoogleとIBMの“量子超越性”論争に触れつつ、これから企業がどう量子コンピュータの進化に備えるべきか考えていこう。

量子をコンピュータに“どう実装する”? 試行錯誤するベンダーたち

 現在開発されている量子コンピュータは、量子ビットをハードウェアに実装する方式を複数持つ。例えば、IBMやGoogleなどが実現している量子ビットは「超電導回路型」と呼ばれ、文字通り絶対零度近くまで冷却して超電導状態にした回路を利用するものだ。この他、IonQが使うイオントラップ方式、Intelが使う半導体/スピン量子ビット方式、Microsoftが使うトポロジカル量子ビットなどの方式が現在研究/開発中だ。

IBM Researchは、2019年夏のブログ記事で、インターンが量子コンピュータのまわりで作業する様子を紹介した(出典:IBM Research Blog)

 この状況はつまり、量子コンピュータの中核となる量子ビットの実装方法についてもまだベストな手法が確立されておらず、試行錯誤が続いていることを示している。さらに前編で解説した、量子が“あいまいな重ね合わせの状態”を維持できる時間(コヒーレンスタイム)はまだごく短く、マイクロ秒単位だという。確かに、コヒーレンスタイムが長くなればなるほど複雑な演算ができると期待されてはいる。ただし、十分なコヒーレンスタイムを確保する段階に至るには、量子ビットの実現方式と同様にまだまだ研究開発が必要だろう。

世間を騒がせた、Google対IBMの“量子超越性論争”はなぜ起きた?

 さて、最近量子コンピュータが大きく注目されたきっかけの一つは、2019年秋にGoogleが科学誌『Nature』で量子超越性(Quantum supremacy)を達成したとする論文を発表したことではないだろうか。

2019年秋、Googleは科学誌『Nature』に量子超越性(Quantum supremacy)を達成したとする論文を発表した(出典:Nature)

 これは、Googleが開発した53量子ビットのプロセッサ「Sycamore Processor」で、従来型のスーパーコンピュータでおよそ1万年を要する演算を約200秒で完了したという内容だった。しかし、この論文についてはIBM Reserchが2019年10月21日付のブログで反論し、Googleが1万年と見積もったスーパーコンピュータでの処理は約2.5日まで短縮できると主張した。なぜこのような“意見の食い違い”が起こったのだろうか?

 IBM Researchの反論を大ざっぱにかみ砕くと「既存のスーパーコンピュータのハードウェアリソースをフルに活用してきちんと最適化すれば、Googleが主張したよりももっと効率よく計算できる」という主張に落ち着く。この反論によって、IBMは量子コンピュータの可能性を否定したわけではない。「必要以上に量子コンピュータをセンセーショナルに取り上げるべきではない」という意味でGoogleにクギを刺したとみられる。

 ここから分かることは、量子超越性の実証は研究開発のマイルストーンになるとしても、時代を大きく変えるほどのインパクトはないということだ。現在使われている、いわゆる“古典コンピュータ”の進化は止まったわけではないし、新しいアルゴリズムが発見されれば、既存のスーパーコンピュータによる演算時間が劇的に短縮される可能性もある。この点から言っても、われわれは量子超越性を「ある時点におけるベンチマーク比較の結果」という位に受け止めておくのが良さそうだ。

“量子コンピュータの時代”に向けて、企業がまずやっておくべきこと

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