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» 2020年02月21日 07時00分 公開

交錯する期待と現実:ビジネス活用はいつ? 2019年に躍進した量子コンピュータの“現状”を振り返ろう【前編】

2019年に一気に話題になる頻度を増した量子コンピュータ。IBMやGoogleなどの世界的なベンダーの他、日本でも国立や私立の研究機関などの取り組みに注目が集まりだした。しかし“量子コンピュータが本格的に活用される”日はいつ来るのだろうか? その基本的な歩みから現状を振り返る。

[渡邉利和,ITmedia]

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 2019年は、量子コンピュータがさまざまな形で話題にのぼった年になった。Googleが“量子超越性(Quantum Spremacy)”を実証したと主張する論文を公開した他、IBMは東京大学とパートナーシップを締結。日本国内に量子コンピュータ「IBM Q System One」を設置することを発表した。

国内にも設置が発表された「IBM Q System One」のイメージ(出典:IBM)

 こうしたニュースを見聞きしていると、すぐにでも量子コンピュータが実用化され、既存の暗号は全て解読されてしまうかのような印象を受けるかもしれない。しかし、取材やリサーチを重ねると「現時点での量子コンピュータはまだまだ基礎研究の段階で、本格的な実用化にはまだ時間を要する」というのが実情のようだ。量子コンピュータ技術は、今どの段階にあるのか? その現状と、ユーザー企業が「“量子コンピュータが実用化された時代”の到来にどう備えるべきか」を、併せて振り返ってみよう。

量子コンピュータの“理想を支える仕組み”と現実

 量子コンピュータを端的に表現すると、「量子力学の原理に基づいて計算するコンピュータ」ということになる。量子力学の理論自体は20世紀初頭に構築されたが、量子コンピュータの構想が現実的になり始めたのはここ数年のことだ。

 量子コンピュータの基礎となるのは「量子bit」(Qbit)だ。現在使われている、いわゆる“古典コンピュータ”で情報の最小単位として使われる「bit」は“0”と“1”の2種類の情報のどちらかを保持し、2進数で演算する。一方量子力学の世界では、実際に測定するまで、その量子の状態をある一定の確率でしか表せない。つまり、量子bitは“0”と“1”がある一定の確率で同時に存在し、測定の結果に応じて“0”または“1”に確定する。

 この測定前のあいまいな“重ね合わせ”の状態をうまく使えば、膨大な情報を同時に演算できる――、というのが量子コンピュータの考え方だ。例として、3bitのシステムを考えてみよう。現代のコンピュータの3bitで表現できる数値は、2進数で000、001、010、011、100、101、110、111の8通りのうちのどれか1種類だ。一方、量子bitの場合はこれら全ての状態が重ね合わされて同時に表現されている形になるので、8種類のデータを同時に保持していることになる。このように、量子bit数が1増えれば、保持できる情報は累乗で増えることになるため、膨大な情報を扱えるというわけだ。

 ただし、量子コンピュータの演算の仕組みは、古典コンピュータのマルチプロセッサシステムのように、独立した演算を並列処理する機構とは異なる。量子bitで同時に重ね合わされている情報は、それぞれ個別に操作できるわけではないためだ。量子bitの操作は、基本的に「“0”か“1”かの確率」を操作することに等しい。前述の通り、測定すると確率が収束して“0”か“1”かのどちらかの値が確定するため、重ね合わされた膨大な情報全てを個別に取り出せるわけではない。

 こうした特徴を持つ量子bitを操作し、目的の演算結果を得るための“量子アルゴリズム”の開発が現在進行中だ。2018年に慶應義塾大学に開設された「IBM Q Network Hub」や、今後日本国内で運用開始される「IBM Q System One」などは、実用機というよりは、量子アルゴリズム開発のためのプラットフォームという意味合いが強いと考えてよいだろう。

2018年に慶応義塾大学が設置した「IBM Q Network Hub」(出典:慶応義塾大学)

「量子コンピュータでもう暗号が解読できる」は、なぜ誤解なのか

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