日本の公共サービスは非効率で、デジタル化の試みは他国と比べて遅れがちであるとされている。しかし近年になり、いよいよ「止まった10トントラックを手で押して動かすように」政府のDXが始まった。
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政府CIO補佐官 ITプロセスコンサルタントの細川義洋氏は「ITmediaエンタープライズ セキュリティセミナー」の中で「アジャイルを知らないと、今どき『お役所仕事』もできません」と題し、同氏が進める政府のDXについて語った。
細川氏は日本電気ソフトウェア(現NECソリューションイノベータ)やアイ・ビー・エムビジネスコンサルティングサービスといった民間企業でシステム開発を担当し、2016年からは政府CIO補佐官として経済産業省(経産省)のDXに取り組んでいる。同氏は行政のデジタル化を「遅ればせながら」と語る。
「役所に届けを出すときに何度も名前や住所を書かされて嫌になった経験がある人は多いでしょう。個々の処理を『そういうもの』と諦めても、国全体で見れば大きな時間とコストのムダが起きています。あの手続きをデジタルによって簡略化することを目標に、『一度届け出たものは2度出さなくてもいいようにする』ことを目指しています」(細川氏)。同氏はこの考え方を「ONCE ONLY」「DIGITAL FIRST」と述べた。
細川氏によれば、政府のDXは「この2年くらいで、急速に進み始めた」のだという。同氏は政府CIO補佐官になってからの4年間を「トラックを人の手で押して、ようやく動き出したかどうかという段階」と語り、これまでの苦労をにじませた。
細川氏によれば、政府のデジタル化には「個人や企業がストレスなく行政サービスを受けられること」の他に、もう1つの大きな狙いがあるという。それはペーパーレス化によって政府が蓄積する膨大なデータの活用だ。つまり、「データに基づいた政策=エビデンス・ベースド・ポリシー・メイキング(EBPM)」による行政サービスの改善である。
「これまで政策を作る際に基とする情報には偏りがあったり、薄かったりしていました。『政治主導』とか『海外の事例に倣う』といった非合理的な判断がされていたのはそのためです。今後はそれを合理的に判断できるようにしていきたいと考えています」(細川氏)
このようなデータ重視の考え方は、10年以上前から「IT国家創造戦略」「e-Japan戦略」などとして存在していたという。しかし中には、役所の資料をただPDF化してWebサイトに貼り付けただけで「IT化できました」と言っていた例もあったという。それではネットで見られるようになっただけで、データの活用ができない。
「既存の業務や手続きをそのままWebでもできるようにしただけのIT化は、DXではありません。DXは『デジタルでなければできないこと』なのです」(細川氏)
同氏はDXの例として、経産省の「ハンコ撲滅運動」を挙げた。ハンコのいらない手続きやオンライン手続き画面の改善、業務を数字で分析する取り組みなども始めているという。
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