SAPの新CEOが説く「これからのエンタープライズIT」Weekly Memo(2/2 ページ)

» 2020年06月22日 11時00分 公開
[松岡功ITmedia]
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インフラには4つのパブリッククラウドを適用

 SAPが描くインテリジェントエンタープライズの全体像は、2年前から取材の中で幾度か見てきたが、3層構造になってだいぶスッキリした印象を受ける。しかし、同構想はただ整備されてきただけではない。クライン氏による最新の取り組みの話から、ポイントを2つ挙げておきたい。

 1つ目は、図1ではテクノロジー層の下に位置付けられるインフラである、「Amazon Web Services」(AWS)「Microsoft Azure」「Google Cloud Platform」(GCP)「Alibaba Cloud」の4つのパブリッククラウドを適用していくと明言したことだ。

 SAPが自らIaaS(Infrastructure as a Service)サービスを手掛けないことは早くから明言していたが、上記の4つのパブリッククラウドをインテリジェントエンタープライズのインフラとすることを明らかにしたのは、筆者が知る限り、これが初めてだ。とはいえ、ユーザーのニーズからいえば、この選択肢が必然なのかもしれない。

 ちなみに、大手ソフトウェアベンダーのクラウド戦略を見ると、MicrosoftとOracleは自らIaaSサービスを展開してきた。クラウド専業のSalesforce.comは当初こそ自らのIaaSのみだったが、今ではSAPと同様にこだわっていない。これはクラウドビジネスをどう捉えているかの違いでもあり、興味深いところである。

 2つ目のポイントは、図1でいうテクノロジー層とアプリケーション層の取り組みだ。全てのクラウドサービスを自社で運営し、同時にこの2つの層にあるテクノロジーやサービスについては柔軟にインテグレーションできるようにすることで、ユーザーニーズに応じた最適なソリューションを短期間で提供していくとしている。

 その一環として、今後はテクノロジー層のAIを必要に応じて業務別クラウドアプリケーションに組み入れていくという。SAPはAI(人工知能)などのインテリジェントテクノロジー群を「SAP Leonardo」とブランド化して売り出そうとしていたが、方針転換を進めた格好だ。

 このインテグレーション戦略で注目されるのは、PaaS(Platform as a Service)とSaaS(Software as a Service)だろう。同社はこれらについて自社での運営を明言している。今回、その中身のインテグレーションを進めて利便性を高めると明言した。つまりは、インテリジェントエンタープライズはPaaSとSaaSにおける「SAPワールド」とも見て取れる。

 だとしたら、それはSAPによるベンダーロックインを引き起こすのではないか――。その懸念を払拭するのが、外部環境と連携可能なビジネスプロセス層だ。この層まで含めて、インテリジェントエンタープライズの世界なのだ。

 SAPのインテリジェントエンタープライズは、今後のエンタープライズITの在り方としてユーザーから見ても参考になる部分があるだろう。例えば、統合されたサービスにどれほどのメリットがあるのか、デメリットはどうか。そうした意味でもインテリジェントエンタープライズの今後の動向には大いに注目していきたい。

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