「マニュアルなしでは使えないシステム」から脱却せよ 日本取引所グループが“要”の会計システム刷新で得た教訓導入後のトラブルにも現場の力で対応

現場で発生する予算やコストを細かく把握し、管理する――。経営の透明性を上げようと管理システムを導入する企業にとって、実際にシステムを操作し、データを可視化する現場の負担は悩みの種だ。日本の主要な証券取引所を運営するJPXは、そんな状況を思い切って抜け出し、国内で当時実績の少ないツールを使ってシステムを刷新する決断を下した。その理由と、導入過程のさまざまなトラブルを切り抜けて得た教訓とは。

» 2020年08月26日 07時00分 公開
[吉村哲樹ITmedia]

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 2013年に東京証券取引所グループと大阪証券取引所(現 大阪取引所)が経営統合して発足した日本取引所グループ(JPX)。東京証券取引所や大阪取引所、東京商品取引所などの現物、デリバティブ市場や、取引の清算、決済機能を提供する日本証券クリアリング機構を傘下に収め、国内金融商品市場の運営全般に関わる機能を一手に提供している。

 そんなJPXは2020年1月、約9年間に渡って利用してきた管理会計システムを全面刷新し、新たなデータマネジメントの取り組みを始めた。当時、同グループで財務部 調査役を務め、現在は企業会計基準委員会(ASBJ)の専門研究員である山下晴之氏によれば、その背景には同社に特有の課題があったという。

JPXは株式会社としての立場の他、東京証券取引所や大阪取引所といった取引の場を公正に運営する立場を持つ(出典:JPX

 「当社も一般企業と同じく、年次で予算を策定して毎月実績値と比較しながら業績予想を立てていくという管理会計の仕組みを回しています。ただし、純粋に利益を追求する事業会社とは異なり、JPXは『金融インフラの運営』という社会的な責務を担っていますから、ただやみくもに利益や効率化を追求するわけにはいきません。事業の公共性を鑑みて、重点的に投資すべき所にはしっかり投資した上で、効率化できる部分についてはさまざまな工夫を凝らしながら効率化を進めています」

 とりわけ2013年に東証一部に上場して以降、同グループは「重要社会インフラの運営主体としての社会的責務」と「株式会社としての株主利益の追求」という、一見すると相反する2つの目的のバランスを取ることを求められてきた。そのために重視したのが「経営コストの徹底的なマネジメント」だったという。

経営管理システムでコスト管理 しかし現場の負担はどんどん増えていった

 必要な投資を実行しながら、同時に収益も確保するためにコストをしっかりと管理し、無駄な費用を削減する。そのためにJPXは3万件近くもの費用項目を設け、管理会計システムを使ってそれらの数値を常に追いかけている。具体的には、経営統合前の2011年に経営管理ソリューションを導入し、予算策定や予実管理、コスト管理、業績予想などに活用してきた。

 導入後しばらくの間は特に不便もなく利用できていたが、年月を経るごとに少しずつ課題が持ち上がってきたという。

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