DXの「痛み」を価値に変える? 日本マイクロソフト、吉田社長が掲げた2021年度の戦略を解説しようMicrosoft Focus(2/2 ページ)

» 2020年10月21日 08時00分 公開
[大河原克行ITmedia]
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8つの業種別組織を掲げるMS 2021年度「2つの注力ポイント」とは

 自社も含めた「DX」を掲げる日本マイクロソフトは、具体的にこれから日本の市場に向けてどうアプローチしていくのか。

 日本マイクロソフトは、2021年度において「政府、自治体のDX」と、「市場、顧客のDX」の2点に注力する姿勢を示した。

 この2つの領域は、日本マイクロソフトの組織体制と照らし合わせると、より詳しく理解できる。

 日本マイクロソフトは、「金融」「製造/資源(エネルギー)」「運輸/サービス」「流通」「自動車」「通信/放送/メディア」「ヘルスケア/教育/ガバメント」「ゲーミング」という、8つの業種別組織を持つ。

 ゲーミングだけが異質のように見えるが、これは「Xbox」の事業を指すものではない。むしろ、ゲーム業界向けに同社のクラウド「Microsoft Azure」(以下、Azure)を始めとしたソリューションを提供し、活用してもらうことを指している。その意味では、同社がゲーム業界を、金融業界や製造/資源業界などと横並びで、独立した業種として捉えているとみていい。

 さらに、同社は執行役員の担当領域として「ストラテジックアカウント」や「ディフェンス&インテリジェンス」「コーポレートソリューション」といったポジションを用意する。これらも、政府や自治体を含めた市場、顧客のDXの推進における重点領域になりそうだ。

業種別の取り組みの他、会見の一部では「Microsoft 365」「Microsoft Dynammics 365」などを活用し、顧客の内製を支援する姿勢も示された(出典:日本マイクロソフト)

運輸、製造、小売事業向けから政府、自治体まで――どこまで領域を広げられるか

 また、業種別の取り組みとして、同社は業界別レファレンスアーキテクチャを提供し、運輸、流通、製造、金融、ヘルスケアの5つの業種に対して11件のテンプレートを用意している。

 さらに、2020年10月の会見では、運輸分野の事例として、ヤマトホールディングスの取り組みを紹介した。ヤマトホールディングスは5万6000台の配送トラックを所有し、年間18億個の荷物を配送している。同社はこのデータをAzureに集約し、AI(人工知能)を活用することで配送ルートやオペレーションを最適化した。

 製造分野の例も紹介した。日立製作所は、生産現場のデータを収集し、生産の進捗(しんちょく)状況や設備の稼働状況、作業員の動作などを見える化する一方、Mixed Reality(MR)ヘッドセット「HoloLens 2」を活用したメンテナンス作業のリモート支援を実現したという。

 小売分野では、コンビニエンスストアを手掛けるファミリーマートやローソンと、新たな店舗オペレーションを実現した。AzureとAIを活用して遠隔操作できるロボットを通じて、在庫管理や商品陳列の自動化を実現したという。

 こうした例の他、同社はコーポレートソリューション分野としている中堅・中小企業のDXの取り組みとして、事業継続に必要なリモート環境の整備を支援していることを強調した。ワークショップやトレーニングに加え「今までにない低価格なサブスクリプションモデルを提供している」とする。

 さらに、政府、自治体向けには、ディフェンス&インテリジェンスによって担当する領域をはじめ、(菅義偉内閣総理大臣による)デジタル庁の構想をきっかけに「クラウド・バイ・デフォルト」原則を基にしたデジタルガバメント(電子政府)が注目を集めている点を取り上げた。

 吉田氏は「業務のデジタル化、データの一元化、基盤の構築、行政を横断するシームレスなコミュニケーションの確立を、Microsoftのクラウドによって実現する」と語る。

 今回の記事では、周辺取材やこれまでの発表などをもとに、具体的な事例や、より詳細な重点領域について示した。実は会見では、同社はそれほど多くの内容を公開しなかった。

 だが、吉田氏が打ち出した「政府、自治体のDX」と、「市場、顧客のDX」における成果が、2021年度の日本マイクロソフトの取り組みの中でどれぐらい明らかになるのかが楽しみだ。

【訂正】著者の指摘を受け、初出時に「Xbox事業のみを」としていた箇所を「Xbox事業を」に訂正しました。(編集部 2020年10月21日 10:21分)

著者プロフィール

大河原克行(おおかわら かつゆき)

フリーランスジャーナリスト

1965年、東京都生まれ。IT業界の専門紙「週刊BCN(ビジネスコンピュータニュース)」の編集長を務め、2001年フリーランスジャーナリストとして独立。IT、電機産業を中心に幅広く取材、執筆活動を行う。Microsoftに関する取材は日本法人設立前から行っている。著書に、『究め極めた「省・小・精」が未来を拓く―技術で驚きと感動をつくるエプソンブランド40年のあゆみ』(ダイヤモンド社)、『松下からパナソニックへ 世界で戦うブランド戦略』(KADOKAWA)、『ソニースピリットはよみがえるか』(日経BP社)、『図解 ビッグデータ早わかり』(KADOKAWA)など。


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