コロナ禍のIT予算計画はどうなるか 景気のサイクルから学ぶ2021年、IT投資の戦術IT革命 2.0〜DX動向調査からのインサイトを探る

2008年、2011年と、日本経済はコロナ禍以前にも大きな景気後退局面があった。このとき企業が次の成長に向けて「動ける」猶予期間はいつまでだろうか。過去の数字から2021年に実行すべきIT戦略を考える。

» 2020年12月24日 08時00分 公開
[清水 博ITmedia]

コロナ禍以降のIT予算計画はどうなるか? 景気のサイクルから学ぶ

 コロナ禍をきっかけに、2020年4〜6月の日本のGDP(国内総生産)成長率はマイナス27.8%と戦後最大の落ち込みとなりました。日本の人口の約83%は戦後生まれですから、ほとんどの人にとって初めての経験だったはずですが、実感としてはいまひとつピンときていないかと思います。

 政府は数多くの景気刺激策を実施しているので、今後さらなる不景気が進むと考えるのは杞憂に終わるかもしれません。景気の良い時期はその時点で実感がなく、後で気付くというのが常です。思い起こしてみると、ここ数年は賃金が上がったり、組織が成長して仲間が増えたりと、良いムードの企業も少なくなかったのではないでしょうか。

筆者紹介:清水 博(しみず ひろし)


 早稲田大学、オクラホマ市大学でMBA(経営学修士)修了。横河・ヒューレット・パッカード(現日本ヒューレット・パッカード)入社後、横浜支社でセールスエンジニアからITキャリアをスタートさせ、その後、HPタイランドオフィス立ち上げメンバーとして米国本社出向の形で参画。その後、シンガポールにある米ヒューレット・パッカード・アジア太平洋本部のマーケティングダイレクター歴任。日本ヒューレット・パッカードに戻り、ビジネスPC事業本部長、マーケティング統括本部長など、約20年間、国内と海外(シンガポール、タイ、フランス)におけるセールス&マーケティング業務に携わる。全世界の法人から200人選抜される幹部養成コースに参加。

 2015年にデルに入社。上席執行役員。パートナーの立ち上げに関わるマーケティングを手掛けた後、日本法人として全社のマーケティングを統括。中堅企業をターゲットにしたビジネスを倍増させ、世界トップの部門となる。アジア太平洋地区管理職でトップ1%のエクセレンスリーダーに選出される。

 2020年定年退職後、独立。現在は、会社代表、社団法人代表理事、企業顧問、大学・ビジネススクールでの講師などに従事。著書『ひとり情シス』(東洋経済新報社)の他、経済紙、ニュースサイト、IT系メディアで、デジタルトランスフォーメーション、ひとり情シス関連記事の連載多数。


・Twitter: 清水 博(情報産業)@Shimizu1manITDX

・Facebook:Dx動向調査&ひとり情シス

 しかしながら最近の調査報道によると、2008年のリーマンショックや2011年の東日本大震災以降の不景気を上回る予測も出始めています。外出自粛の影響が出る業界においては、新型コロナウイルス感染症の流行初期よりも現在の方が業績の悪化に見舞われています。一方でBtoBを主とする分野の業界は、不安はあるものの景気悪化の予兆はあまりなく、IT予算などを急激に凍結する話はまだ聞こえてこないようです。

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予算減少のタイミングのズレ、2022年はIT戦略投資冬の時代の可能性

 これまでIT予算がどのタイミングで変化してきたのかを検証してみましょう。これは、日本情報システムユーザー協会(JUAS)が毎年実施している調査レポートの2020年度版『企業IT動向調査報告書2020年度』の第二章「IT予算」にあるDI値から調べられます。

*DI値:ディフュージョンインデックスのこと。IT予算を「増加する」割合から「減少する」割合を差し引いた値です。

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 この値を見ると、リーマンショックが起きた2008年はIT予算を増やす企業が14.6%もありました。しかし、2009年になると予算を「増加する」割合と「減少する」割合がフラットの0.0%になります。さらに、その翌年の2010年になると、現在までの最低値であるマイナス9.0%まで下がっています。

 景気後退とIT予算の削減は完全に同時ではなく、少しタイムラグがあるということがDI値から分かります。2000年代から情報システム部門で働いている方々からは「リーマンショックや東日本大震災では、その直後には特に大きな動きはなかった。でも、1年半たって忘れかけ始めた頃に予算の削減がジリジリ始まって、とても厳しい思いをした」という話をよくお聞きします。もし、その流れと同じことが再現されるとなると、2022年度に予算削減が始まる恐れがあります。

 図で2010年以降の動きも見てみると、2012年度頃からは好景気が続いていたことが分かります。2019年度はDI値が31.8%と市場最高値を示しました。このレベルから2010年度のようにDI値がマイナスになるということは、30ポイント以上ダウンするということになります。もし歴史は繰り返すのであれば、情シスの方々はそれを見越した予算繰りに対応できるように準備する必要があるでしょう。

情シスの55.1%が景気悪化を予測、実行すべきIT施策は2021年のうちに

 デル・テクノロジーズのサーバ部門で実施した「情シス意識調査」*は、情シスの方達が感じる景気観についても調べました。

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*デル・テクノロジーズ データセンターコンピュート&ソリューションズ事業統括部門が2020年9月に情シス部門を対象に実施した調査。調査は全企業を対象にオンラインで実施し、356社からの回答を得ています。回答企業の割合は企業規模3000人以上の企業が26.3%、300人以上3000人未満の企業が46.4%、300人未満の企業が27.3%。


 調査の結果、55.1%が企業を取り巻く景気状況を不調と回答しており、情シスの方達には景気状況は深刻に感じられていることが分かりました。企業規模別に見ると、3000人以上の大企業では47.8%の回答者が景気を不調と見ていましたが、300人以下の中小企業では64.3%の回答者が景気の不調を感じていました。中小規模の企業の方が景気後退の進行が早く、各種報道に近い感覚を敏感に読み取っているようです。情シスの方達は社内の売り上げや利益などに触れる機会が多い立場でもあるので、今後のIT予算の増減を的中させる知恵や経験もあります。既に2年後の予算減額を想定していまのうちに改修に着手したり、リプレースを検討したりしているとのお話も聞きます。IT予算削減のカウントダウンは、もう始まっているのかもしれません。

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